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ウクライナ軍の南部作戦司令部は6日、ロシア軍がドニエプル川のカホフカ水力発電所のダムを爆破し、決壊したと発表。欧州最大のザポリージャ原発はこのダムの貯水池から冷却水を取り込んでいる。南部ヘルソン州のプロクジン知事は、ダム決壊による下流域の洪水で、ウクライナ側が支配するドニエプル川西岸だけで住民約1万7000人が危険にさらされるとし、米当局者は「多数の死者が出た恐れがある」と述べた。
ウクライナからの報道によると、ロシアが一方的に「併合」を宣言した南部ヘルソン州で6日、ドニエプル川に設置されたカホフカ水力発電所のダムが爆破され、決壊した。欧州最大のザポリージャ原発はこのダムの貯水池から冷却水を取り込んでいる。ウクライナのポドリャク大統領府顧問はダム攻撃について米CNNに、ウクライナ軍の攻勢を妨害する目的でロシア軍が実行したと非難した。
時事通信によると、ウクライナ政府は国家安全保障・国防会議の緊急会合を開催し、ダムが紛争時の保護対象になると定めたジュネーブ条約に違反するとして、国連安全保障理事会に提起する方針などを確認した。ゼレンスキー大統領は動画で、既に住民の避難は始まっているものの、80の町や村が浸水被害に遭ったと述べた。
ロシア側の地元当局者は国営タス通信に、ウクライナ軍による攻撃が原因だと主張し、関与を否定した。ロシア連邦捜査委員会は、決壊を受けて捜査開始を発表した。被害状況などについても明らかにする方針だという。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は6日の記者会見で、ダム決壊で「多数の死者が出た恐れがある」と語った。ただ、現時点で正確な死傷者数は不明だとして、状況を注視していると強調した。
カービー氏はダム決壊の影響について「ウクライナの人々や地域にとって(被害は)甚大だ」と指摘。ウクライナ当局と連携し、避難民への支援を検討していると表明した。ウクライナ軍による反転攻勢への影響に関しては「見極めるのは時期尚早だ」と述べるにとどめた。
国際原子力機関(IAEA)は同日、ダムの決壊を受け、ザポリージャ原子力発電所は貯水池の上にある池から「数か月」は冷却用に取水できるとの見通しを示した。このダムの貯水池は、同原発の原子炉に冷却水を供給しているほか、外部電源が故障した際に、繰り返し使用を余儀なくされている非常用ディーゼル発電機にも使用されている。
IAEAのグロッシ事務局長は声明で「代替水源は複数あるが、主なものは大きな冷却池で、貯水池よりも高い位置にある」と説明。この池が「数か月」分の冷却水を供給できると述べた。その上で、この水源を保護するよう呼びかけた。外交筋によると、原発には現在3人のIAEA職員が駐在している。
国連安全保障理事会は6日、カホフカ水力発電所の巨大ダム決壊に関する緊急公開会合を開いた。決壊の原因が明らかでない中、欧米は名指しでのロシア非難を避けつつ、責任追及の構えを見せた。ロシアはウクライナ側の関与を主張。国連高官は決壊による被害に懸念を示し、ダムへの攻撃が国際人道法違反に当たると強調した。