注目ポイント
ロシアによるウクライナ侵攻を機に台湾有事の懸念が高まる中、台湾では一般市民に軍事的な専門知識や技術を教授する民間団体が増加している。数ある団体の中でも2021年設立の「黒熊学院」は、当初はボランティア団体として活用していたが、22年夏に半導体受託生産大手の聯華電子(UMC)の創業者、曹興誠氏が巨額の私財を提供すると発表したことで大きな注目を集めた。同学院の何澄輝CEOは、学院のカリキュラムは外的な脅威に順応し、対応できる「社会的レジリエンス」の向上に重きを置いていると話し、軍事支援だけにとどまらず、戦争の脅威に晒されても社会の基本的な営みを維持できる「全国民による防衛」を実現することが「現代の戦争に勝つことができる」と強調する。(本記事は2023年1月3日公開のThe News Lens「【關鍵專訪】黑熊學院執行長何澄輝:不是「民兵」也不是「民防」,我們要推廣的是「全民防衛」」の翻訳記事)
家に避難していたのに、そこを離れなければならなくなった時はどうすればいいのでしょうか。 避難用リュックには何を入れるべきか。避難経路はどのように設定するのか。 家族が一緒にいない可能性がある場合、緊急時の集合場所はどうやって決めるのか。 赤ちゃんや小さな子供がいる場合は何から準備すればいいのか。そういった基本的な疑問から、『避難』のカリキュラムを組み立てています」
何澄輝氏は、戦争は最大の「複合型災害」であり、爆発や火災、断水、停電等が起こり得ると説明する。そして避難に関する知識は、戦争に対処するときに役立つだけではない。最も過酷な戦争に対処する手段があれば、他の災害に対処するときにも応用ができるという。
以上が現在最も人気が高い「ベーシックキャンプ」課程の内容である。
今後はより高度な課程も開設
黒熊学院は今後、4つの領域をベースに、(第2段階として)10項目以上のコースを展開する予定だ。例えば、救護の基礎を学んだ後、更に多くの人を助けたいと思ったら、もっと多くの救護知識を学ぶ必要がある。「一般救護」から「緊急救護」、さらに「野外救護」に進めば、その都度必要な知識も変わる。一方、軍事概論では、より高度な「情報収集」「敵の識別」などのコースが用意される。
その後、第3段階に進むと、さらに専門的な講義が行われる。現在のところ「攻撃、防御、制御、保護」の4つの領域に分けて計画している。「攻撃」は軍事に関わりたいが、キャリアプラン上、入隊が難しい人が参加できる。「防護」は、救援用機器操作のライセンスが取得できるコースを開設する。「制御」は現場をコントロールすることを指し、物資センターの開設方法、スペース配分など、管理と運営のスキルを学ぶ。
第3段階では、ライセンス取得や更に専門的なトレーニングに対応するが、同様のコースは既に他の組織でも実施されている。それゆえ第3段階では、カリキュラムは黒熊学院だけが用意するものではなく、様々な組織のリソースを集めて、人々が学びたいコースを選択できる「アカデミー」を形成すること、それが黒熊学院の役割となる。
黒熊学院のコンセプトが3段階に分かれているのは、黒熊学院を「プラットフォーム」にするためである。初めのベーシックキャンプ課程では、市民は基本の4つの領域を学ぶ事ができる。この段階では、市民は4つの領域全てを学ぶが、第2段階のアドバンスキャンプ課程では、市民は自分の適性や意欲、能力、時間的余裕に応じて、4つの領域の中で自分が伸ばしていきたい方向を選択できるようにする。