2023-06-14 政治・国際

台湾・黒熊学院CEO「『民兵』でも『民間防衛』でもない。『全民防衛』を推進したい」

© Photo Credit: 關鍵評論網 李秉芳

注目ポイント

ロシアによるウクライナ侵攻を機に台湾有事の懸念が高まる中、台湾では一般市民に軍事的な専門知識や技術を教授する民間団体が増加している。数ある団体の中でも2021年設立の「黒熊学院」は、当初はボランティア団体として活用していたが、22年夏に半導体受託生産大手の聯華電子(UMC)の創業者、曹興誠氏が巨額の私財を提供すると発表したことで大きな注目を集めた。同学院の何澄輝CEOは、学院のカリキュラムは外的な脅威に順応し、対応できる「社会的レジリエンス」の向上に重きを置いていると話し、軍事支援だけにとどまらず、戦争の脅威に晒されても社会の基本的な営みを維持できる「全国民による防衛」を実現することが「現代の戦争に勝つことができる」と強調する。(本記事は2023年1月3日公開のThe News Lens「【關鍵專訪】黑熊學院執行長何澄輝:不是「民兵」也不是「民防」,我們要推廣的是「全民防衛」」の翻訳記事)

市民社会の士気が衰えていないから、前線部隊への支援の必要性を語ることができます。こうした『全国民による防衛』こそ、黒熊学院が力を入れているところです。

台湾は長い間、軍事面すなわち軍備に多額の投資を行ってきました。国防部(国防省)と台湾軍は確かに大きなプレッシャーと責任を背負っています。しかし、現代の戦争は、それだけでは決して十分ではありません。努力が必要な部分の多くは、実は軍が従来向き合ってきた分野以外にあります。

例えば、かつて地震や台風などの重大な災害が発生した際、台湾政府は最後に軍を救援に派遣したものでした。自然災害は単発のものですが、戦時の災害は全方位に及びます。この時、軍が前線で戦いながら、救助のためにも人員を割かなければならないとしたら、軍の戦力が低下するだけでなく、非常に大きな負担をかけることになります。

社会全体が戦争に対応する能力を備えてこそ、現代の戦争に勝つことができるのです」

 

黒熊学院のカリキュラムの理念

「黒熊学院のベーシックキャンプ課程は、主に4つの領域から構成されています。第1の領域『軍事概論』では、現代の戦争の基本的な姿や、起こりうる事態などの基本的な概念を解説します。これは台湾が長い間、多くの軍事的風説に悩まされ、脅かされてきたことへの対応であり、ひいては第2の領域である『認知戦』にもつながります。

台湾では多くの偽情報が出回り、中国共産党から『文攻武嚇』(文書による攻撃と武力による威嚇)を受ける恐れがあります。第2の領域では、市民に情報の真偽を見分ける方法を教えます。それには、真偽を見抜くための便利なツールの利用法を教えることも含みます。

第3の領域は『救護』に関する基本的なことで、止血の方法、負傷者の搬送、核や化学物質など特殊災害におけるゾーニングなどが含まれます。人類の戦争への恐怖は、それがいつ起こるのかがわからないという予測不可能性と、何が起こったのかがわからないという未知の事態への恐れ、その二つからきていると考えます。

ですから、これらの課程の目的は、戦争において実際に何が起こるのかを人々に伝えることにあります。戦争は間違いなく恐ろしいものですが、何が起こり得るのかを知り、自分の立ち位置が分かれば、それほど恐れる必要はありません。戦争に直面した時、最も重要なことは『私は誰で、私はどこにいて、私は何をすべきか』を知ることなのです。

第4の領域は『避難』についてです。空襲警報が鳴ったとき、自宅や勤務先の避難シェルターがどこにあり、中には何があるのかを知っておく必要があります。皆さんの生活圏も職場と家庭の『2点』だけではないでしょう。皆さんも散歩や買い物の途中で空襲に遭ったらどう行動すべきか、どうやってシェルターを探すのかを考えておかなければなりません。

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