注目ポイント
ロシアによるウクライナ侵攻を機に台湾有事の懸念が高まる中、台湾では一般市民に軍事的な専門知識や技術を教授する民間団体が増加している。数ある団体の中でも2021年設立の「黒熊学院」は、当初はボランティア団体として活用していたが、22年夏に半導体受託生産大手の聯華電子(UMC)の創業者、曹興誠氏が巨額の私財を提供すると発表したことで大きな注目を集めた。同学院の何澄輝CEOは、学院のカリキュラムは外的な脅威に順応し、対応できる「社会的レジリエンス」の向上に重きを置いていると話し、軍事支援だけにとどまらず、戦争の脅威に晒されても社会の基本的な営みを維持できる「全国民による防衛」を実現することが「現代の戦争に勝つことができる」と強調する。(本記事は2023年1月3日公開のThe News Lens「【關鍵專訪】黑熊學院執行長何澄輝:不是「民兵」也不是「民防」,我們要推廣的是「全民防衛」」の翻訳記事)
ここ2年の間に台湾海峡情勢が激化するにつれ、台湾が中国に侵略されるのではないかとの懸念が高まっている。多くの台湾人が自腹を切って軍事訓練に参加し、こうした流れを受けて、有料で軍事訓練を提供する民間団体が続々と現れている。
中でも最も注目を集めたのは、聯華電子(UMC)の創立者である曹興誠(ロバート・ツァオ)氏が「黒熊学院」に6億台湾ドルを寄付し、3年間で300万人の“黒熊勇士”を育成するプロジェクトを発表したことだ。同プロジェクトにより黒熊学院は、軍事訓練を提供する民間組織の中でもひときわ目を引く存在となった。そこで今回、The News Lensは黒熊学院の何澄輝CEOを訪ね、インタビューを試みた。
「民兵」でも「民間防衛」でもなく「全国民による防衛」を
普通の人が民間の軍事訓練と聞いて思い浮かべるのは、ロシアとウクライナの戦場でウクライナ正規軍と協力して作戦を行う「民兵」や、平時に地震や台風などの自然災害が発生した際に、警察や消防と連携し、自らの救急救命スキルを生かして他の人々を助ける「自衛」システムだろう。今回、我々が黒熊学院を訪れて初めに知りたかったのは、黒熊学院が自らの進むべき道をどのように位置付けているのかという点だった。
何澄輝CEOによると、黒熊学院を設立した当時、重点に置いたのは「全民防衛」だったという。
「ところが、台湾社会を観察すると、『防衛』は単に軍事に関わる事柄として理解されていました。戦争は社会のあらゆる面に影響を及ぼすため、社会全体の防衛力を向上させるには、軍事面の向上だけでなく、民間を含めた『社会的レジリエンス』の向上が必要です。社会的レジリエンスをいかに向上させるかということに、私たち黒熊学院は重きを置いています。
ロシア・ウクライナ戦争を例にとると、ウクライナにもアゾフ大隊のような民兵組織がありました。彼らは開戦当初に正規軍に編成され、ウクライナ国家警備隊に組み込まれました。一方、ウクライナには『TDF』(ウクライナ領土防衛隊)と呼ばれる部隊もあり、一定の軍事訓練を受けていましたが、実際には台湾でいうところの『民間防衛』の部分をカバーしています。
振り返ってみると、台湾の『民間防衛』という概念は、かなり古いものになっています。現代の『全国民による防衛』は、もはや軍事支援だけにとどまりません。戦争の脅威に晒されても、社会の基本的な営みを維持することが非常に重要なのです。ロシア・ウクライナ戦争を例にとると、ウクライナが今まで戦えているのは、市民社会が崩壊していないからです。