注目ポイント
今年1月から台湾で国民裁判員制度が始まった。日本の裁判員制度を参考に立法された「国民裁判員法」(國民法官法)は、懲役が10年以上になる重罪事件や故意の犯行で死者が出た事件の刑事裁判に、満23歳以上の一般人を国民裁判員として参加させる仕組みだ。2020年に立法院(国会)で同法が可決・成立に至るまでの背景、台湾より一足先に裁判員制度が運用されている日本・韓国との比較、制度化で期待される社会の変化とはどのようなものなのか。(本記事は2023年4月28日公開のThe News Lens「【圖表】從日韓經驗看,人民參與審判真的能拉近與司法的距離嗎?」の翻訳記事)
翻訳者:椙田雅美
2010年8月15日、6歳の女児が性的暴行を受けた事件で「女児の意に反してはいない」と主張していた林義芳被告に対し、懲役3年2ヶ月の判決が下された。この判決が報道されると、裁判官そして司法制度に対して「常識が欠如している」、「社会秩序から逸脱している」、「恐竜裁判官(世論に反し、被告に対して軽い判決を下した裁判官を揶揄する言葉)」などと市民の批判が殺到した。同年9月25日には「白バラ運動」に発展し、およそ1万人の市民が台湾総統府のあるケタガラン大通り(凱達格蘭大道)で抗議集会を行った。集まった市民は立法府(国会)に対し、児童への性的暴行という犯罪を重視し厳罰に処すこと、また不適切な判決を下した裁判官を解任するよう要求した。

2023年に施行される台湾の「国民裁判員法」(中国語:國民法官法)は裁判員制度の導入により、司法と市民の距離を縮める目的で制定された。
日韓の裁判員制度導入の背景
日本では1923(大正12)年に陪審法が制定され、5年の準備期間を経て,1928(昭和3)年から1943(昭和18)年まで陪審制度が実施されていたが、戦争により停止した。その後平成になって10年間にわたる司法改革を行い、欧米各国の陪審制度を参考にした上で2009(平成21)年に裁判員制度がスタートした。日本で裁判員制度を設立した背景にはやはり司法と裁判官への不信があった。1990(平成2)年に栃木県足利市で発生した女児誘拐殺人事件、いわゆる足利事件では、当時の未熟なDNA鑑定、容疑者の長時間拘留による自白強要、司法の独断専行により、冤罪事件を引き起こした。冤罪の被害者となった被告は17年もの間服役した。
この事件は日本の司法界に激震を起こし、国民から司法の責任を追及する声が上がり「陪審制」、「参審制」について議論が高まった。当時の司法改革審議会は、日本の司法制度に適した「裁判員制度」を創設し、市民の裁判への参与を決定した。

韓国では、市民が刑事裁判に参加する、独自の国民参与裁判制度が実施されている。この制度は日本と異なり、司法に対する国民の強烈な不信感から生まれたものである。2003年に国民1000人に対して行った調査では、裁判が公正に行われていないと答えた人が実に83.7%に達した。
韓国の行政機関は新制度によって国民の司法に対する信頼を高め、裁判の迅速な進行を促し、裁判への理解を得ることを目的として陪審制の導入を決定し、2008年に開始した。この制度は殺人、汚職、強盗など重罪事件に適用されている。