注目ポイント
米株式市場で5月末、米半導体大手エヌビディアの時価総額が半導体企業として初めて1兆ドル(約140兆円)を超え、世界の注目を集めた。同社は半導体の設計を専門に行う「ファブレス」で、台湾出身のジェンスン・ファン(黄仁勳)氏が最高経営責任者(CEO)を務める。半導体を受託製造する「ファウンドリー」では、台湾積体電路製造(TSMC)が圧倒的なシェアを誇っているが、米国が得意とするファブレスの世界でも台湾の存在感が高まっている。
ChatGPTにも使用の主力GPUに投資家期待
エヌビディアの株価は5月30日、前週末比で約8%高の419ドルまで上昇し、上場来最高値を更新。時価総額も膨れ上がり、アップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグル親会社)、アマゾン・ドット・コムに次いで米巨大テック企業の「1兆ドルグループ」入りを果たした。
同社は画像処理半導体(GPU)を主力とし、従来はゲーム用が中心だった。AI(人工知能)向けでも世界シェア8割を握っており、「Chat(チャット)GPT」など生成AIの学習や推論に使われるようになったことから、一気に投資家の期待が高まった。
台北市で5月30日から6月2日まで開かれたアジア最大級のIT(情報通信)見本市「台北国際電脳展(コンピューテックス台北)」で、エヌビディアはAIのデータ処理に特化した専用半導体を年内に投入すると発表し、台湾の半導体大手、聯発科技(メディアテック)と車載情報端末向けの設計で提携する計画も明らかにした。

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台南出身のファン氏里帰り講演に4000人
そのように躍進するエヌビディアは1993年、ファン氏が仲間とともに設立した。ファン氏は1963年、台湾南部の台南市で生まれ、1972年に両親の仕事の関係で米国に移住。スタンフォード大学で電子工学の修士号を取得し、シリコンバレーの半導体メーカーで経験を積んだ。黒のシャツと黒革ジャケット、黒っぽいジーンズ姿がトレードマークで、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏をほうふつとさせる。
ファン氏は台北国際電脳展に合わせて台湾を訪問し、5月29日に行った講演では、「画像処理半導体の能力は過去5年で1000倍アップしており、(半導体の集積率は約2年で2倍になるという)『ムーアの法則』を上回った。計算速度の加速と生成AIの使用でコンピューター産業は大きく変革する」と、半導体やIT産業の発展に自信を見せた(台湾『中央通信』5月29日)。
台湾出身のファン氏の「里帰り講演」を聴こうと、会場の南港展覧館には開場2時間前から長い列ができ、約4000人が座席を埋め尽くした。ファン氏は時折、北京語や台湾語を交え、講演は予定の1時間半を超えて2時間近くに及んだ。

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関係良好なTSMC・張忠謀氏核に台湾人脈
エヌビディアの強みは、半導体の生産を委託するTSMCと良好な関係を保ってきたことだ。創業後、生産委託先の確保に苦労していたファン氏は、台湾人脈を活用してTSMC会長の張忠謀氏を頼り、以後30年近くにわたってエヌビディアとTSMCは二人三脚で半導体の性能を向上させてきた。張氏は米半導体大手テキサス・インスツルメンツ(TI)で上級副社長まで上り詰めた後、台湾に渡ってTSMCを創業した経歴を持ち、米国と台湾の半導体業界を結びつけるキーパーソンとなっている。