2023-05-26 ライフ

タイヤ由来のマイクロプラスチック 人体と環境へのリスクは?

注目ポイント

車を運転するたびにタイヤから排出されるプラスチック粒子は、私たちの健康や環境にどんな影響を及ぼすのだろう?そのリスクを解明するための研究が、スイスで進められている。

環境エンジニアである同氏は、EPFLの他にも国内2カ所の研究所でタイヤの毒性研究のチームの監督に当たっている。研究のスポンサーを務めているのは、主要タイヤメーカー10社が立ち上げたコンソーシアム「タイヤ産業プロジェクト(TIP)他のサイトへ」だ。

ブライダー氏のチームは、粒子汚染物が食物連鎖で単純な幼生からニジマスに運ばれる可能性があるのか、あるとすればそのプロセスはどんなものかを解明すると共に、その毒性的影響を評価することを研究の主眼としている。

2021他のサイトへ年と22他のサイトへ年にそれぞれ発表された中間報告によると、タイヤ粒子の化合物によりニジマスが急性毒性のリスクにさらされることはない。現在は長期的影響について引き続き調査が行われている。

その過程で明らかになった新事実を踏まえ、ブライダー氏はタイヤ粒子が「有毒であるのは確か」だが、その正確な毒性レベルは「十分な情報が無い」ためまだ分かっていない、と説明する。

スイスの連邦材料科学技術研究所(EMPA)による2019年の調査では、タイヤ粒子の約4分の3が道路近辺に堆積していることがわかった。残りは雨風で遠くへ運ばれる Empa

スイスはEU未加盟だが、化学物質に関する国内法はEUの法律に足並みをそろえつつ、マイクロプラスチック汚染とタイヤの摩耗を政治的な議題として取り上げている。昨年発表したプラスチック汚染と環境に関する62ページの報告書で、政府はタイヤの摩耗についても多く記述している。

ただタイヤ摩耗問題を扱う連邦環境局によると、問題視されているタイヤの化学物質について連邦機関がただちに個別の措置をとる可能性は低い。

同局のドリーン・クーユムジアン広報官は「スイスで使用される自動車用タイヤは全て海外輸入されている。スイス側で一方的にタイヤ添加剤を規制すれば大きな貿易障壁となり、現実的ではない」と説明する。

スイス政府は、タイヤ摩耗汚染に関する報告書をこの夏に公表する予定だ。プロ・ナチュラのシュナイダー・シュッテル氏は、当局が意識向上に努めること、対策を提案することを求めている。

同氏が後押ししているアイデアは、既存の道路排水処理設備を、高速道路網で最も交通量の多い区間を対象に拡大するというものだ。こうした設備では、自然のプロセスを利用したり機械的な手法を用いたりしてタイヤ摩耗粉の除去や廃水処理、重金属のろ過を行っている。

「マイクロプラスチックの大部分がタイヤ由来であることを考慮しない限り、プラスチック問題やプラスチックの排除法について議論はできない」

編集:Sabrina Weiss/Veronica DeVore、英語からの翻訳:フュレマン直美、追加取材:ムートゥ朋子

 

この記事は「SWI swissinfo.ch 日本語版」の許可を得て掲載しております。

あわせて読みたい