注目ポイント
2020年にUNRWA事務局長に就任したフィリップ・ラザリーニ氏。国連に従事するスイス人の中では最高職位に就く。国連事務次長も兼任 Thomas Kern/swissinfo.ch
ここで目立つのがアラブ諸国の拠出金の少なさだ。しかもここ数年はさらに減っている。「パレスチナ人との連帯がよく表明されるが、約束する拠出額は減る一方で、その開きが目立つ」とラザリーニ氏は言う。それは、この地域の地政学的変化の表れだ。一部のアラブ諸国は、対イスラエル関係の正常化を図りたいと考えている。その結果、パレスチナ難民への支援が薄れる。
困難さを増す環境下で生き残らなければならないパレスチナ難民にとって、これは単なる資金面への影響にとどまらない。「国際社会から忘れ去られたという思いが増している」とラザリーニ氏は言う。蔓延する貧困や先行きの不透明さも混在し、危険だ。
非現実的な期待と極めて政治的な環境
UNRWAへの批判もこの数年で強まった。経営上の不手際や教科書に反ユダヤ主義的な記載があるという非難も浴びた。スイスのイグナツィオ・カシス外相は2018年、ヨルダンの難民キャンプを訪問後、UNRWAは「問題の一部」になっており、パレスチナ問題の解決につきまとう障害の1つだと発言した。これはイスラエルや米国の右翼団体などによって既に広められたナラティブ(物語)だ。
ラザリーニ氏の前任者で、同じくスイス人の外交官ピエール・クレヘンビュール氏は2019年、経営上の問題を強く批判され辞職した。この出来事もまた寄付金の拠出を滞らせることになった。スイスを含む欧州各国が支払いを停止したためだ。
批判は真摯に受け止めるとラザリーニ氏は言う。そして組織の再構築や、各地域の当局が手配する教材の厳格な査定の実施に言及する。「だが、この地域の問題の責任はたびたびUNRWAに押し付けられる。これらの問題は政治的レベルでしか解決できないのに、その兆しが見えない状態がずっと前から続いている」
難民の地位を今後も継続したり、帰還権に固執したりすれば和平交渉が不可能になる、というのがよく言われる指摘だ。代わりに各国における難民の社会統合により投資すべきだと。「だが、これらの国で、こうした条件が整うところは1つもない」とラザリーニ氏は話す。
UNRWAに非現実的な期待がかけられていることは、このテーマが強く政治化されていることの表れでもある。あれかこれかの二者択一メガネで全体を眺めると、冷静な失策分析や組織改革が難しくなる。「一方的な親パレスチナ」「一方的な親イスラエル」という非難がすぐに高まるからだ。
変化の兆候は見えず
2024年、UNRWAは創立75年を迎える。ラザリーニ氏は多くの点でほとんど変化が見られないと語る。例に挙げたのが、最近訪れたベイルートの難民キャンプでの出来事だ。そこに住む青年から「4分の3世紀が過ぎてもまだ食事が配られている」と言われたという。