2023-05-24 政治・国際

「現状はもはや限界に達している」

注目ポイント

2020年にUNRWA事務局長に就任したフィリップ・ラザリーニ氏。国連に従事するスイス人の中では最高職位に就く。国連事務次長も兼任 Thomas Kern/swissinfo.ch

2020年にUNRWA事務局長に就任したフィリップ・ラザリーニ氏。国連に従事するスイス人の中では最高職位に就く。国連事務次長も兼任 Thomas Kern/swissinfo.ch

暫定組織が暫定組織でなくなるのはいつなのか。国連の救済機関UNRWAが中東でパレスチナ難民支援を始めたのは74年前。それ以来、UNRWAには常に財政難がつきまとった。だが、2010年頃から援助資金を減額する国や地域が増え始め、状況が切迫した。特に痛手だったのが2018年、ドナルド・トランプ米元大統領下の米国から資金が一時的に途絶えたことだ。この停止措置は後任のジョー・バイデン大統領が撤回した。

ラザリーニ氏は、UNRWAが必要とする金額と実際に使える金額には大きなギャップがあると指摘する。同氏の中では組織の資金調達が最優先事項にあり、またそこには広報活動も含む。同氏は「我々が求める金額と実際の資金額の間の隔たりがこのように広がれば、組織の内破にもつながりうる」と警告する。

同氏が予告するような破滅は訪れるのか。各国が約束する援助資金は10年以上も滞ったままだ。そして、その10年の間に中東には何度も危機が訪れた。シリア内戦、レバノン崩壊、新型コロナウイルスのパンデミック、そして最近では大地震のほか、イスラエルとパレスチナで死者を出す武力衝突が再び増加した。これらはUNRWAに登録されているパレスチナ難民に繰り返し打撃を与え、そのUNRWAがこうした難民の唯一の受け皿であることも少なくない。それなのに追加資金不足が足かせとなり、増え続ける需要に対応できないとラザリーニ氏は訴える。「現状はもはや限界に達してしまった」

 

増える難民、高まる要求

UNRWAは1948年のアラブ・イスラエル戦争で住居や生計を失ったパレスチナ人を救済するため暫定的に設立された。以来、任務の委託は3年ごとに延長されている。そんな仮の組織はもうすっかり国家的な課題を担う機関へと成長した。ヨルダン、シリア、レバノン、パレスチナ自治区に住む560万人の登録者を対象に、医療・教育・人道政策などの分野で支援している。政治概況によって、難民は多かれ少なかれUNRWAの活動に頼っている状況だ。

ガザ地区南部のハーン・ユヌス難民キャンプにある自宅の近所で遊ぶパレスチナ難民の子供たち Mohammed Saber/Keystone

このうち学校に通う生徒は現在55万人、また医療の応急措置および食糧支援を必要とする人がそれぞれ200万人いる。特筆すべきは、UNRWA職員約3万人の大半が現地のパレスチナ人であることだ。支援活動の維持ばかりか、職員への賃金支払いに困ることも少なくない。

難民の地位は子に引き継がれるため、難民の数は増す一方だ。それに伴いUNRWAへの要求も高まる。資金は全て任意の寄付だ。予算の大半は西側諸国が捻出し、2022年は16億ドル(約2140億円)だった。スイスは慣例的に毎年約2千万フラン(約30億円)を拠出している。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい