注目ポイント
G7広島サミットは久々に大きな成果を残した。各国首脳そろっての原爆慰霊碑献花、ウクライナのゼレンスキー大統領電撃訪日などドラマも少なくなかった。首脳声明は、ロシアを強く非難しただけでなく、中国に対しても「東シナ海及び南シナ海における状況を懸念」とけん制。G7が対ロシア問題の延長線上に中国を見すえたかっこうで、「西側同盟対中露枢軸」という〝新冷戦〟の構図が鮮明になった。その最前線、極東で中国と対峙する日本はどうするのか。
日本、対中抑止へ各国との連携を強化
岸田首は2022年春にインド、カンボジア、4月の連休にはインドネシア、ベトナム、タイ各国を訪問、「インド太平洋構想」の実現へ向けて意見交換した。
23年に入ってからはフィリピンのマルコス大統領、カンボジアのプラック・ソコン副首相兼外相らが来日している。

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フィリピンには6000億円の巨額支援が供与される。インドのモディ首相、インドネシアのジョコ大統領らは、5月の広島サミットのアウトリーチ会合に招待された。
また、中国が接近を試みている太平洋島しょ国との連携も強化、ミクロネシア、クック諸島首脳、マーシャル諸島外相らも来日し、岸田首相、林外相と会談。5月の連休には林氏がパラオ、フィジーを訪問した。
一方、政府関係者ではないものの、自民党の萩生田光一政調会長が昨年暮れ、台北で蔡英文総統と会談した。
与党3役の台湾訪問は2003年の麻生太郎政調会長(当時)以来実に13年ぶりで、今後も要人訪台に拍車がかかると予想される。
ウクライナに忙殺される米国の肩代わり
日本が積極的にアジア外交を進める背景には、日米同盟に基づく役割分担の合意が仄見える。
23年1月、岸田首相が訪米した際の共同声明は、中国を念頭に「ASEAN(東南アジア諸国連合)、島しょ国との連携を通じて、この地域の平和と安定を実現する」と謳われている。
首相はまた1月、今国会の施政方針演説で、「アジア、欧州、大洋州をはじめとするパートナー国との連携を深め自由で開かれたインド太平洋を推進する」との決意を表明した。
一連の外交の動きは、これら共同声明、施政方針に盛り込まれた構想を実践に移すという意味合いだろう。
ウクライナ問題に忙殺されている米国に代わって日本がこの地域の安定へのリーダーシップをとることができれば、米国はキーウ支援にエネルギーを費やすことが可能となり、日米安保体制の深化、真の意味での対等な同盟関係の実現にもつながる。
広島サミット終了日に、中国の孫外務次官が垂大使に抗議したのも、こうした日本の構想を見透かしたかのようだった。
強硬一辺倒避け、硬軟併せ持って
日中関係の改善はいっそう遠のく可能性が出てきたが、かといって、対中強硬姿勢一辺倒も日本のとるべき道ではないだろう。
何と言っても中国は隣国であり、お互い引っ越しのできない関係にある。貿易・経済での相互依存も大きく、北朝鮮の核開発など協力すべき問題も少なくない。
それを考慮すると、林外相が23年4月に中国を訪問した意味合いは大きかったというべきだろう。