注目ポイント
G7広島サミットは久々に大きな成果を残した。各国首脳そろっての原爆慰霊碑献花、ウクライナのゼレンスキー大統領電撃訪日などドラマも少なくなかった。首脳声明は、ロシアを強く非難しただけでなく、中国に対しても「東シナ海及び南シナ海における状況を懸念」とけん制。G7が対ロシア問題の延長線上に中国を見すえたかっこうで、「西側同盟対中露枢軸」という〝新冷戦〟の構図が鮮明になった。その最前線、極東で中国と対峙する日本はどうするのか。
中国の抗議に日本反論、異例の応酬
G7広島サミットを総括すると、20世紀後半の冷戦時代と同様、政治色がきわめて強かったということだろう。ウクライナ問題で〝悪役〟ロシアに非難が集中したのは当然として、主要な〝脇役〟中国に対しても厳しい視線が注がれた。

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首脳声明には昨年に続き、「東・南シナ海での力、威圧による一方的現状変更への反対」、「台湾海峡問題の平和的解決」が盛り込まれた。
今回はこれに加え、ウクライナ問題に関して「ロシアが侵略を停止し、即時、完全、無条件に撤兵するよう圧力をかけることを求める」の一項が付記された。
広島サミットが閉幕した5月21日夜、中国外務省の孫衛東次官が日本の垂秀夫大使を呼び、これらの動きについて抗議した。

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孫次官は、「日本はG7議長国として中国を中傷、攻撃し内政に干渉した。(台湾問題は)中国の核心的利益の核心であり、中日関係の政治的基礎に関わる」として「強烈な不満と断固とした反対」を伝えた。
垂大使は「中国が行動を改めない限り、G7として懸念に言及するのは当然だ。中国側がまず前向きな対応をすべき」と真っ向から反論した(5月22日付産経新聞)。
こうした機会では、抗議する方は言いっぱなし、受ける方も「本国に伝える」と、聞きっぱなしにするのが定石であることを考えれば、今回のような激しい応酬が交わされたのは異例だ。
日本側が、こうした事態を予想して身構えていたことをうかがわせるが、首脳声明が出されたと同時に抗議してきたこと自体、「新冷戦」の当事者に名指しされたことへの中国自身の強い反発の表れとみるべきだろう。
「イデオロギー」から「力」による新冷戦へ
20世紀における冷戦は、一方は米国とその同盟国、対するは旧ソ連・東欧というイデオロギーによる覇権争いだった。ソ連が崩壊して争いに決着がついた後、今世紀に入って急速に中国が台頭したことで、西側と中国の間で、今度はパワーによる対峙が生じ始めた。
21世紀における「新冷戦」と呼ぶべき所以だ。
世界経済は中国に強く依存していながら、政治、外交、安全保障では、米国をはじめ西側と中国は相いれず、そこに近年、「強いロシア」の復活をめざすプーチン政権が参入、世界は、中国・ロシアVS米国・西側諸国ーという色分けが進んできた。
今回の広島サミットで、そうした新冷戦の構図がいよいよ鮮明さを増し、世界政治における双方の対立はいっそう激化する事態を迎えた。
こうした状況を想定してか、日本は昨年来、積極的なアジア外交を展開してきた。