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中国当局は習近平国家主席の軍事スローガンをお笑い芸人が先週末にネタにしたとして、この芸人が所属する大手芸能事務所に罰金1340万元(約2億6300万円)を科し、北京での公演を無期限停止処分にした。習指導部による言論統制が厳格化された典型例だと欧米主要メディアは伝えている。
中国の文化・観光局は17日、同国の大手芸能事務所「上海笑果文化メディア」とお笑い芸人House(本名=李昊石)が舞台で人民解放軍を「激しく侮辱」したとSNS微信(ウィーチャット)で声明を出した。笑果に対する罰金は1340万元(約2億6300万円)で、当局は興行収入の133万元(約2600万円)も「違法な利益」とみなし押収するという。
同局は声明で、「いかなる企業や個人も人民解放軍の輝かしいイメージを不当に中傷するような舞台として、中国の首都を利用することを決して許さない」とし、「不快なジョークを飛ばすような公演はすぐさま中止されるべきだ」と付け加えた。
李は13日の公演で、自分が保護した2匹の野良犬がリスを追いかけたというネタを披露。その中で、「作風優良、能打勝仗(態度が良ければ、戦いに勝てる)」と表現した。これは習主席がかつて人民解放軍に向けて発したスローガンのパロディーだという。
米ブルームバーグ・ニュースによると、SNS微博(ウェイボ)に投稿された録音では、観客が笑っている様子がうかがえる。だがその後、ある視聴者が「李のセリフは無神経だ」と指摘したことがきっかけで、インターネット上で炎上。人民解放軍の広報機関など国営メディアは、笑果に対する正式調査を報じるとともに、このパフォーマンスを「有害」と非難した。
同ニュースは中国が2021年、人民解放軍に対する侮辱を犯罪とする法律を制定したと説明。17日の声明で当局は、笑果と李が事前に承認されたネタの内容を「気まぐれに変更」したとし、さらなる法的責任を追及する方針を示したが、詳しい説明はしていない。
地元メディアは、笑果は謝罪し李氏との契約を解除したと報道。また、微博で13万6000人のフォロワーを持つ李は15日、「全ての責任は私にあり、全ての芸能活動を停止します。深く反省し、自分自身を再教育します」と、同プラットフォームで謝罪した。
米CNNによると、お笑い芸人を互いに競わせるテレビのコンテスト番組が人気を集め、近年はスタンドアップコメディが中国でブームになっている。
罰則が発表された後、一部の中国のインターネットユーザーは微博を利用して当局の決定を称賛。あるユーザーは、「当然だ。 文化的だと主張しているスタンドアップコメディは文化低俗な芸術形式だ」と投稿した。
だが、笑いに対するさらなる弾圧につながるのではと懸念する意見もあり、お笑いのネタを真剣に受け止め過ぎているのではないかと疑問視する声も上がっている。