2023-05-18 政治・国際

中国リスク回避でEUがインドに急接近 環境問題では対立も経済では関係強化

© Photo Credit: GettyImages 欧州委員会のベステアー副委員長

注目ポイント

インドとの関係強化を模索する欧州連合(EU)は16日、本部を置くブリュッセルでEU・インド貿易技術評議会の初会合を開いた。中国依存によるリスクを回避したいEUは、新たな大規模市場を求め、中国を抜いて人口世界一となったインドに急接近。インドにとっても中国への経済依存を軽減したいという共通の考えがあった。ドイツの公共放送DWがその背景に迫った―。

 

EUとインド、「炭素国境税」をめぐって対立

DWによると、笑顔で握手する裏には、EUとインド政府の間には大きな相違点もある。欧州では気候変動に対する政策が厳格化する中、EUは企業がコスト削減のため、排出規制が緩い国に生産拠点を移すことを阻止し、「炭素リーケージ」を防ぎたいとしている。

炭素リーケージとは、企業がCO₂の排出削減に取り組んだ結果、国際競争の観点で、炭素効率の低い輸入品に脅かされ、国内生産が減少することを指す。また、炭素制約の緩い海外に産業拠点を移転することで、地球全体でのCO₂の排出量が減少しない現象でもある。

「それはEUにとって経済的に悪であり、主要な気候変動目標にとっても悪であると考えている」とDWは説明。EUがセメント、鉄鋼、鉄、肥料など一部の輸入品に「炭素国境税」を計画しているのはそのためだとした。

一方のインドは、この動きは成長を不当に阻害するものと主張。インドのラオ研究員は、「私たちの経済発展は、そう簡単に炭素と石炭をなくすことができない」と強調。「インドは常にグローバルサウス(新興国や途上国)と関わり、積極的、建設的に関わっていくなら、彼らがどういう状況なのかを真に理解する必要があると常に訴えてきた」と説明した。

 

地政学的分断の中で世界から求愛されるインド

EUとインドが中国に対する懐疑論で一致しているとしても、ロシアとの関係にどう取り組むかについては意見が分かれる。EUがウクライナ侵攻をめぐり、ロシアへの相次ぐ制裁を発動する一方、インドはロシアとの武器や石油の貿易を維持し、BRICS形成を通じて強固な関係を維持してきた。インド政府は侵略に関してロシアを公には非難していないが、平和を呼びかけている。

ワグナー研究員は、欧州は過去にインドを誤解し、「インドを世界最大の民主主義国家として、自動的に西側陣営に属するものと考えていた」と指摘。だが、インドは多極化する世界で一つの極になることを望んでいると解説。同研究員は、「現時点では、非常に有利な立場にある」とし、その理由は米国やEUなど西側諸国、ロシア、そして中国がインドに〝求愛〟し、関係強化を図ろうとしているからだと述べた。

そのため、今年はG20(金融・世界経済に関する首脳会合)の議長国を務めるインドが、ワグナー氏は、「自らの地政学的野望のため、インドはG20を利用する」と予測した。

 

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