注目ポイント
インドとの関係強化を模索する欧州連合(EU)は16日、本部を置くブリュッセルでEU・インド貿易技術評議会の初会合を開いた。中国依存によるリスクを回避したいEUは、新たな大規模市場を求め、中国を抜いて人口世界一となったインドに急接近。インドにとっても中国への経済依存を軽減したいという共通の考えがあった。ドイツの公共放送DWがその背景に迫った―。
今週開催されたEU・インド貿易技術評議会の初会合は、具体的な合意というより互いの顔合わせの予定だったが、EUとインドは量子コンピューティングと高性能コンピューティングの分野でのさらなる協力と、デジタル公共サービスの互換性を高めることで合意した。
ただ、ドイツの公共放送DWによると、首脳会合の外では、別の力がインドとEUを近づけようとしている。会合後の記者会見では、双方が「リスク回避」という言葉を複数回言及し、中国への経済依存を軽減したいという共通の考えを表明した。
ブリュッセルはニューデリーに多角化を期待
EUが中国との関係を完全に断ち切ることはないが、サプライチェーンの多様化を目指すことを明らかにしている。そこで登場したのがインドだ。
「インドの人口は14億人。つまり、われわれは〝規模の経済〟で、EUは〝技能の経済〝。この2つのパワーの中心地が連携するのは自然なこと」とインドの政府系シンクタンク・マノハール・パリカー国防研究分析研究所のスワスティ・ラオ研究員はDWに語った。
加えて、政治問題も重要な要素だ。「インドは中国主導のアジアの秩序を非常に警戒している。アジア全体の多極化を守るため、インドはあらゆる手を尽くすだろう」とラオ氏は述べた。
インドと中国の関係は、両国間の国境紛争や、人気動画共有アプリ「TikTok」を含む多くの中国の技術を制限しようとするインドの動きによって複雑化している。欧州と中国の関係は、新疆ウイグル自治区での人権問題をめぐる制裁などにより、長い間緊張関係が続き、2020年の欧州との投資協定の進展は凍結されたままだ。
16日の会合で欧州委員会のベステアー副委員長は、インドの半導体生産拡大計画を例に挙げ、EUとインドの強力関係がブリュッセルの「リスク回避の考えに力を与える」と指摘。同氏は、インドが将来「信頼できる取引先」として、欧州向けに提供できる分野として、量子コンピューティングや「5Gを超えて発展する技術」を挙げた。
だが、ドイツ国際安全保障問題研究所のクリスチャン・ワグナー研究員は、EUが中国から距離を置いた場合、インドは「必ずしも最も重要なパートナーにはならない」との考えを示した。「中国から撤退する企業の多くが東南アジアへの進出を望んでいる。すなわち、インドは他のアジア勢と競合することになる」と分析。「ただし、戦略地政学的な状況に目を向けると、確かにインドの方がはるかに大きな注目を集めている」と付け加えた。