2023-05-17 政治・国際

「米国の同盟衝動と中国の冒険主義」が招く 米中戦争は比国をめぐり開戦か=米研究機関

© Photo Credit: GettyImages 米比合同軍事訓練

注目ポイント

米シンクタンク「クインシー研究所」は今週、フィリピンとの軍事同盟を深めようとする米国の衝動はリスクを伴い、中国の冒険主義と相まって、アジアの平和を脅かしているとするアナリシスを発表した。一方、フィリピンは中国の実効支配が進む南シナ海・南沙諸島の主権を明示するため、排他的経済水域(EEZ)に同国の国旗を付けた浮標(ブイ)を設置した。

インドネシアで開催された先週のASEAN首脳会議は、南シナ海で「領有権問題を複雑化またはエスカレートさせ、平和と安定を脅かすような活動を自制すること」を求めた。「これは積極的に海洋進出する中国の攻撃的な行動を明確に示したものだ」と米クインシー研究所のサラン・シドレ上級研究員は15日に発表した「米中戦争はフィリピンをめぐり開戦するのか」と題されたアナリシスの中でそう説明した。

一方、米国とフィリピンの軍事同盟における最近の展開もまた、この地域における安全保障の力学を複雑化し、混迷をエスカレートさせているとシドレ氏はいう。クインシー研究所は、「終わりなき戦争を終わらせる」という目標を掲げ、リベラル派の投資家ジョージ・ソロス氏と右派の実業家チャールズ・コーク氏が共同出資して、2019年に米ワシントンで開設されたシンクタンクだ。

シドレ氏によると、先月30日から4日間に渡ったフィリピンのマルコス大統領の訪米を受け、米国防総省が発表した最新の2国間防衛ガイドラインは、有事に備えた1951年の「相互防衛条約(MDT=米国とフィリピンの同盟を規定する協定)」について強調している。同条約は、南シナ海のあらゆる海域を含む太平洋で、フィリピンまたは米国の軍(両国の沿岸警備隊を含む)、航空機、公船に対する武力攻撃が行われた場合に発動される。

実際に今年2月6日、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のアユンギン(同セカンド・トーマス)礁付近で、フィリピンの海軍拠点への補給活動を支援していた同国の巡視船が、中国海警局の艦船から軍事用レーザー光線の照射を受けた。ガルベス米国防相は、中国海警局の行為は「攻撃的で危険」だと非難し、「人命を危険にさらすような挑発行為を中国政府は慎むべき」と警告した。

シドレ氏は、米国が直接的な軍事介入を行う前提条件について繰り返し明言することは、南シナ海における勢力均衡という新たな現実を無視していると主張。現在の状況は、領有権を主張する国が互いに海洋での争奪戦を本格化させた1970年代のようなものではなく、中国の相対的軍事力は当時よりもはるかに増大していると指摘した。

シドレ氏は「パワーバランスがこれほど急激に変化するとき、米国はいつ直接介入して自国の軍を危険にさらすかについて、過去の経験から新たな軍事力の現実を反映する形で、徐々に修正していく必要があるのではないだろうか」と問う。

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