2023-05-16 政治・国際

スイスに厳しい現状も、国連では「コップの中の嵐」

注目ポイント

スイスへの風当たりが強い。ウクライナへの武器再輸出禁止や、ロシア資産の凍結に及び腰なのに加え、ここにきてクレディ・スイスの破滅が重なった。この状況下ではスイスの国連安全保障理事会における初仕事にも悪影響があると考えて当然だろう。しかし、ニューヨークの国連本部では、どこからもそうした話は聞かれない。

世界政治の舞台、ニューヨークの国連安全保障理事会の議場の様子。スイスは2023〜24年の非常任理事国(10カ国)を務める © Keystone / Alessandro Della Valle

理論上、国連加盟国193カ国はいずれも平等だ。だが実情は異なる。国連で最も強力な機関である安全保障理事会の常任理事国5カ国は、拒否権のおかげで特権階級を形成している。その大使らは、ニューヨーク・イーストリバー沿いの国連本部界隈では王侯貴族だ。

その1人、ニコラ・ド・リヴィエール仏国連大使(59)は、ここ国連本部でも一目置かれる存在だ。その大物外交官をして「安全保障理事会でのスイスおよびスイス国連大使パスカル・べリスヴィル氏との協力関係には、私を含めチーム全員が非常に満足している。そこには一点のかげりもない」と言わしめている。

ものごとを美化せず、必要とあれば歯に衣着せぬことで知られるド・リヴィエール氏が「全ての重要問題、主原則や国際法、人権に関しフランス及び欧州連合(EU)は、スイスと同じ側に立っている」と述べているのだ。

ド・リヴィエール氏は、スイスの取り組みが中立政策ゆえに不足しているという印象は全く持っていない。「我々は中立というものを承知し尊重している。そして時にスイスが橋渡し役や交渉のプラットフォームとして、また、その人道的伝統と赤十字国際委員会(ICRC)のおかげで特別な役割を担うことは有益なことだ」と捉えている。

しかし、ウクライナへの武器再輸出を拒み、オリガルヒ(新興財閥)の資金凍結には消極的といったスイスへの批判についてはどうか。ニューヨークでスイス国連代表団を率いるベリスヴィル氏によれば、国連本部ではこれらはごくたまに、しかも軽く触れられる程度だ。もちろん、これらが安保理で本筋のテーマではないという理由もある。

ド・リヴィエール氏は「こうした場合は対話を持つ。我々はさまざまな国に対し方針の転換を働きかけることがある。それはスイスだけとは限らない。ただし決定的なのは、ロシアによる攻撃に対しスイスは終始一貫して明確な非難を表明し、欧州連合(EU)の制裁措置に追従していることだ。そこが大きくものを言っている。ちなみに、スイス・EU間だけでなくEU内部にも、はるかに深刻なケースも含めいくばくかの齟齬(そご)はある」と説明する。

これについて同氏は、独政府がウクライナ戦争開始以降、どれほど軌道修正せざるを得なかったかが何よりの証拠だと指摘する。

ド・リヴィエール氏が抱くようなスイス観は、国連本部内において決して孤立した意見ではない。同様の話は関係者との会話中、何度となく耳にする。例えば、前スウェーデン国連大使で現EU国連大使のオロフ・スクーグ氏は「スイスとは素晴らしい協力関係にある。まさにウクライナ問題でもスイスは原則に基づく確固たる立場を取っている。それが我々の受け止め方だ」と話す。

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