注目ポイント
オランダ、清国、大日本帝国…そして中華民国、統治者が次々に入れ替わってきた台湾の言語事情はまことに複雑だ。現在、「共通中国語」(マンダリンチャイニーズ)が多くの場面で使用されるが、「福建語」の流れにある「台湾語」を話す人々も多く、「客家(ハッカ)語」や原住民の各部族語なども存在する。1949年に蒋介石が「中華民国」ごと台湾に逃れてきたため、広大な中国大陸の各地の言語も流入しており、日本語の痕跡も少なからず残っている。台湾在住26年の筆者が前回に引き続き、台湾における各言語の区別表現を考察する。
「中国語」を「国語」と呼ぶと論争に
例えば台湾で使われている「中国語」を、一般台湾住民がよく使っている呼称「国語」に習って、日本人が「国語」と呼んでしまうと、日本人にとっての「国語」は「日本語」なのですから、前後の文脈などが明確でない限り、いったいどこの国の「国語」を指しているのかが紛らわしい文章になるかもしれません。
また台湾人、日本人に関わらず、台湾が「中華民国」体制であることに反感を持つ人は「中華民国」の公用語であるという意味での「国語」という表現を嫌います。
会話の中で台湾の中国語を「国語」と呼び、それが原因で言い争いに発展した場面を私は数多く見てきました。
また中国(中華人民共和国)の公用語、共通中国語は「普通話」と呼ばれています。中国の普通話も台湾で使われている共通中国語も主に「北京官話」を元にして作られた言語なので、お互いに違いは色々あっても、基本的には同系統の言語です。だから台湾を紹介する記事であっても「中国語(普通話)」という表記を使ったケースもたまに見られます。しかし、普通話は、厳密には「中華人民共和国」の公用語を指します。台湾の中国語を指して、「普通話」と呼ぶことには非常に違和感を覚えます。
共通中国語を指す「華語」や「台湾華語」という表現もありますが、台湾や中国語に縁のない日本人にはわかりにくいでしょう。
「台湾華語」は「台湾の共通中国語」が妥当か
私の場合、今まで自分が書いた台湾についての文章の中では「中国語」、あるいは「華語」、「台湾華語」などを使ってきました。しかし、台湾に関しての予備知識が全くない人たちも読むことがあるだろうし、更に中国(中華人民共和国)で普通話と呼ばれている共通中国語と混同されることも避けたいし、また日本でも少しずつですが、「台湾華語」という名称が浸透してきていることなども踏まえ、「台湾華語(台湾の共通中国語)」という表現がいいのではないかと考えるようになりました。標準中国語という言い方もあると思いますが、台湾の中国語は何を持って標準とするのかが曖昧です。だから、台湾内の異なるエスニックの人たちがお互いに共通語として使っている言語という意味で ”台湾の共通中国語 ” という表現にしました。

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「台湾語」=「閩南語」としたくないワケ?
さて、中国語の次に広く使われている言語、「台湾語」に関してですが、台湾語は日本が台湾を統治する以前から最も多くの人たちに使われてきた言語であり、異なるエスニックの人たちの共通語としても使われてきた言語です。日本統治時代は「日本語」が「国語」とされていましたので、日本語が公用語であり、共通語でした。しかし、日本語を習得していない人たち同士の共通語は「台湾語」でした。「客家語」や原住民の諸語を母語とする人たちも、自分たちの母語が通じない相手とは日本語、その日本語が通じない場合は台湾語を共通語として使っていたはずです。