注目ポイント
人口の高齢化と医療分野の人手不足に直面するスイスで、身近な人をケアする介護者の存在は欠かせない。だがそうした人への社会的認知度は低く、直接の財政支援を行う自治体は少ない。そんな介護者への支援を拡充する動きが出ている。

家族や友人の世話をする介護者の負担に突如注目が集まったのは昨年11月、閣僚の突然の辞任発表がきっかけだった。左派・社会民主党所属の閣僚シモネッタ・ソマルーガ氏が、脳卒中で倒れた夫の介護を理由に辞任すると発表した。
マスコミが「献身的行為」だと報じるなか、ソマルーガ氏自身は、夫の健康問題は深い「ショック」で、「自分の人生における変化」だったと説明。「この状況下で以前のように仕事を続けられない」と語った。だが、働きながら介護せざるをえない人も多い。
国レベルで定義づける必要性
スイスでは人口の約15%が身近な人を介護している。主な担い手は女性で、ほとんどが無償だ。このような介護者の献身的な働きが、人手不足に悩む病院や高齢者介護施設の負担を軽減する一方で、介護者には重い負担がのしかかる。こうした介護に対する社会的な認知度のなさもそれに拍車をかける。
労働組合の統括組織トラバーユ・スイスとベルン応用科学大学が共同で行った調査によると、仕事を持つ人の約2割に当たる86万人が身近な成人をケアする。だが、雇用者から支援を受けているのはその3分の1に過ぎない。連邦内務省保健庁(BAG/OFSP)は、全年齢層の介護者数は最大140万人と見積もる。
それでも、介護者を取り巻く環境は2021年の新法で若干改善された。身近な人の介護を理由とする短期有給休暇(3日間)と、重篤な病気・けがの子供を持つ親を対象とした有給介護休業(最大14週間)が導入されたからだ。また、国民議会(下院)の社会保障・保健委員会が今月、介護者の地位を国レベルで定義づける必要性について議論する予定だ。
介護者の健康と社会生活への影響
ヴォー州で活動する介護者協会のレミ・パングー会長は「連邦レベルはおろか州レベルでさえ、この労働を金銭的に評価する法的基盤は整っていない」と話す。
同協会は企業訪問を通じ、介護で給与・企業年金が減ることへの意識啓発を行っている。
同氏は「働く人が最も重視するのは、勤務割合の減少や年金加入実績の空白を避け、雇用者との間で労働時間の調整に合意することだ」と強調する。
同氏によると「ヴォー州にいる介護者8万6千人の約6割が仕事を持つ」。同州は介護者への精神的サポートも始めた。電話相談窓口に寄せられる相談件数は年間約1500件と、ここ10年で倍増した。地域の相談所では年間1700件を超える。
同州は2019年、給付金に700万フラン(約7億8500万円、当時)超を、また介護支援サービスへの補助金にも同額を投入した。給付金の約1割は所得補償に充てられるが、介護者への直接補償ではない。