2023-05-14 観光

アミ族の食卓を彩る 山と海のめぐみ  東海岸の豊浜と長浜 

注目ポイント

クジラ色の大海原から波が打ち寄せる。山沿いに色とりどりの家が並ぶ原住民の集落には、海を見下ろす小さな教会がいくつも建っている。都会に暮らす人にとっては、海外より遠く感じられる東海岸の双浜(花蓮県の豊浜と台東県の長浜の一帯)だ。誰もが知っているような有名な観光スポットはないが、ここに流れる静かで穏やかな時間が旅人をひきつけ、多くの人が幾度も訪れている。

文・蘇俐穎 写真・林格立 翻訳・山口 雪菜

クジラ色の大海原から波が打ち寄せる。山沿いに色とりどりの家が並ぶ原住民の集落には、海を見下ろす小さな教会がいくつも建っている。都会に暮らす人にとっては、海外より遠く感じられる東海岸の双浜(花蓮県の豊浜と台東県の長浜の一帯)だ。誰もが知っているような有名な観光スポットはないが、ここに流れる静かで穏やかな時間が旅人をひきつけ、多くの人が幾度も訪れている。

双浜(豊浜と長浜)へ行く近道はなく、台北からは車で少なくとも3時間の道のりである。最初に到着したのは花蓮県豊浜の豊富集落で、頭目の家で昼食をいただいた。シカクマメの和え物、イシクラゲとカタツムリの炒め物、そしてさまざまな野菜の入ったスープである。

「アミ族は、空のものは飛行機、陸のものは自動車、海のものは潜水艦以外なら、何でも食べますよ」と食事をともにした集落の陳立年さんは言う。「草を食べる民族」と呼ばれるアミ族の人々は、農耕文化も持っているが、日常の食材は身近なところから得ている。都市に暮らす人々が多少なりとも冷凍食品に頼っているのに対し、陳立年さんは、アミ族の冷蔵庫は山と海にあり、冷凍したものは質が落ちると言う。

集落に暮らす陳立年さんとともに歩いてアミ族の文化に触れていく。

 

オーストロネシアの世界へ

食後、私たちは陳立年さんについて山へ入った。「できるだけゆっくり歩いてください。平地を歩く時の3分の1のスピードで」と言う。身軽な服装の彼は、入山前に軽く口笛を吹く。風を引き寄せて一緒に行くためだと言う。

「ここでは、皆さんの知らないオーストロネシア文化に触れることができます」と陳さんは言う。地元の人々も「家屋の方が人口より多い」と言う集落は、閉鎖的なように見えるが、実は大海原の向こうのもう一つの世界とつながっているのである。人類学の研究によると、ここはオーストロネシア系諸族の発祥地で、ニュージーランドのマオリの人々も、毎年のようにここへ祖先を拝みに来るのである。

私たちは陳さんに従って「森の深み」へと入っていく。イノシシの穴やヤギの通り道、サルの糞、センザンコウが食べ残したアリ塚などを見つけた。また、アミ族がカヌーの素材にするパンノキやケガキ、集落の女性たちが好んで採るエレファントグラスなどにも触れられる。

標高362メートルの中腹まで登ると、コーヒーの香りが漂ってきて、豊富集落の頭目である許永哲さんと妻の葉美珠さんが耕した農地がある。十数年前、彼らは台北で退職して故郷へ帰り、山の中の2ヘクタールほどの土地にコーヒーの木を植えた。ここで採れるコーヒー豆の味わいはすっきりしていて、娘の許清娟さんが「海岸珈琲」というブランドを打ち立て、台湾東海岸でもユニークなコーヒー農園となった。林の中、炭火焙煎の香りがただよい、多くの人が集落を訪れるきっかけになっている。

豊富集落にはコーヒーの香りが漂い、これを求めて多くの人が訪れる。
大自然の中でコーヒー豆の炭火焙煎を体験できる。

 

伝統食から変化した白いカタツムリ

私たちは豊富集落を後にし、南の台東県長浜に向かった。ここには台湾で唯一白玉蝸牛(白いアフリカマイマイ)を養殖するAWOS農場がある。私たちはカタツムリのサンドイッチをほおばり、農場主である文宏程さんのお話をうかがった。

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