2023-05-13 政治・国際

2023年6月18日の国民投票

注目ポイント

今年スイスの最初の国民投票では、多国籍企業の最低法人税率、環境保護法、COVID-19法の3つの案件について是非が問われる。

国民投票の実施は9カ月ぶり。スイスでは通常、3カ月に一度国民投票が行われる。前回から期間がこれほど空いたのは、スイスの直接民主制の歴史上、非常に珍しい。主な原因は新型コロナウイルスだ。議会が新型コロナ危機への対応に追われたため、他の立法作業、ひいてはレファレンダム(国民表決)の提出が先送りされた。 

多国籍企業の最低法人税率に関する憲法改正案 

投票案件の1つ目は、多国籍企業の最低法人税率の変更だ。 

経済協力開発機構(OECD)は2021年、世界規模で税の公平性を高めるため、巨大多国籍企業の法人税率の下限を一律15%にする新ルールの導入を決めた。スイスはOECDに加盟している。 

スイスでは、法人税は州の管轄だ。現在、法人税率が15%に満たないのは国内26州のうち21州。スイスがOECDの新ルールに従う場合、15%との差分を連邦の「補完税」新設で補うことになるため、憲法改正が必要となる。 

連邦政府と連邦議会及び各州は、今回の憲法改正案を強く支持している。賛成派の経済連合エコノミースイスのモニカ・リュール会長は、最低税率導入が不可避ならば、せめて税収基盤は国内にとどめるべきだと話す。同氏が懸念するのは、スイスが新ルールに従わない場合、15%との差分は他国が課税できるため、税収が外国に奪われてしまうことだ。 

しかし左派勢力は、同改革案にある増収の配分比率(75%を州、25%を連邦政府に配分)を不満として、有権者に反対票を投じるよう呼び掛ける。多国籍企業が拠点を置くツークやバーゼル市などばかりに有利で、州間の税制競争を助長すると考えるからだ。社会党のファビアン・モリーナ議員は、同案が否決されれば、より公平な配分の法案を作成できると説く。 

ただ、仮にこの改正案が国民投票で可決されても、タックスヘイブン(租税回避地)というスイスの汚名が一夜にして消えることはないだろう。税の公平性を求める活動家は、世界の平均法人税率(約25%)が実現して初めて、企業が税率の低い地域に生産拠点を移そうとする動きが抑制できるとしている。 

2050年までの気候中立目指すスイスの環境新法 

2つ目は、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す環境保護法だ。スイス気候保護連盟による「氷河イニシアチブ(国民発議)」の対案として、昨年9月にスイス連邦議会が可決。同法の施行に反対する議会第1党の右派・国民党(SVP/UDC)が必要数の2倍を超える有権者の署名を集め、レファレンダム(国民表決)を成立させた。 

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