2023-05-12 政治・国際

英国初の「3人の親」を持つ赤ちゃんが誕生 難病遺伝防ぐためドナーの受精卵を核移植

© Photo Credit: Shutterstock / 達志影像

注目ポイント

英保健省は、母系遺伝性の難病「ミトコンドリア病」が子に伝わるのを防ぐ目的で受精卵の「核移植」を行い、遺伝的に3人の親を持つ赤ちゃんが英国で初めて誕生していたことを明らかにした。英紙ガーディアンが9日報じた。この病気には治療法がなく、健康的な子供を授かる唯一の手段だという。

難病「ミトコンドリア病」が子に伝わるのを防ぐために、受精卵の「核移植」を行うという技術は、2015年に英ニューカッスル大学などの研究チームが開発。英国は同年に法改正し、世界で初めて受精卵の核移植を合法化した。

英紙ガーディアンによると、18年には英政府の研究監視機関「ヒト受精・発生学委員会」(HFEA)が受精卵の核移植を承認して以降、少なくとも30件が承認され、今年4月20日までに誕生した赤ちゃんは「4人以内」だという。

この「核移植」とは、ミトコンドリア病を持つ母親の卵子と、正常なミトコンドリアを持つドナーの卵子それぞれに父親の精子を体外受精させ、母親の受精卵から核を取り出し、ドナーの受精卵に移植する。提供された卵子の核は、母親の核を移植する前に除去しておくが、核の外にあるミトコンドリアの遺伝子はドナーのものが残る。このため、生まれてきた子は遺伝的に「3人の親」を持つことになる。ただし、提供者のDNAはわずか約0.1%とされる。

ミトコンドリア病は、細胞内小器官「ミトコンドリア」の働きが低下することで、運動障害などを起こす病気。ミトコンドリアは、体内のほぼ全ての細胞内に存在する小器官の1つで、細胞のためのエネルギーを作り出している。機能不全のミトコンドリアは身体にエネルギーを送ることができず、脳損傷や筋力の低下、心疾患、けいれん、失明などを引き起こす。また、ミトコンドリアは母親からのみ受け継がれる

英国やフィンランドの統計によると、ミトコンドリア病の患者は10万人に9~16人。この病気には治療法がなく、出生後数時間から数日で死に至ることもある。ミトコンドリア病で子供を何人も失っている家族もあり、今回の技術は、そうした家族にとって健康的な子供を授かる唯一の手段とみられている。

英BBCによると、ミトコンドリアは独自の遺伝情報を持つため、核移植の技術を使って生まれた子供は、理論的には両親のDNAと提供者のDNAを継承する。この変化は永続的なもので、その後の世代に引き継がれる。ただ、提供者のDNAはミトコンドリアに作用するものだけなので、容姿などの遺伝には影響せず、法的には「3人目の親」とは認められないという。

米国では16年、この技術を使って世界初の赤ちゃんが誕生している。

生殖医療に関する慈善団体「プログレス・エデュケーショナル・トラスト」のサラ・ノークロス会長はBBCに、「提供されたミトコンドリアを持った少数の赤ちゃんが英国で誕生したというニュースは、ミトコンドリア提供の評価と改良に向け、慎重に行われているプロセスから一歩進んだ段階だ」と評価した。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい