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旧ソ連ベラルーシの作家サーシャ・フィリペンコ氏はロシア語で執筆活動を続けてきた。事実上の亡命先スイスで、ウクライナ戦争をめぐり欧州諸国の抱える矛盾を厳しく指摘した。

swissinfo.ch:あなたは、欧州はベラルーシを「見捨てた」という表現をよく使います。ウクライナ戦争で何か変化はありましたか。
サーシャ・フィリペンコ:欧州の議題にベラルーシという国は存在しません。私は最近、ジュネーブでの講演で、スイス人ジャーナリストから「ウクライナ情勢を考えると、あなたにベラルーシを語る資格があるのか」と言われました。
私たちは皆、ウクライナで起きていることを懸念し、戦争の即時終結とウクライナの勝利を望んでいます。それでも、今も欧州の中心でベラルーシ人900万人が(アレクサンドル・ルカシェンコ大統領の政策の)人質になっているという事実は変わりません。2020年にベラルーシ大統領選の不正疑惑をめぐり抗議運動を起こした時は、誰もがベラルーシ人を称賛しました。それが一転し、今では「共同侵略者」扱いです。
ウクライナの政治家は(2020年ベラルーシ大統領選の対立候補で、現在はリトアニアで亡命生活を送る)スベトラナ・チハノフスカヤを指導者として認めません。ところが彼らの一部はベラルーシ人にウクライナ支持を求める一方で、ウクライナの利害と一致するならルカシェンコを容認します。
swissinfo.ch:ロシアやベラルーシの市民に国内から声を上げ抗議するよう呼びかける人々は大抵、欧州の安全な場所にいます。
フィリペンコ:確かに。でも、なぜ欧州は対ロ貿易の増加他のサイトへに対する抗議デモを行うなど、模範を示せないのでしょうか。欧州でロシアへの輸出額が横ばいか減少したのはフィンランド、スウェーデン、バルト三国のたった5カ国です。ウクライナ戦争に強く反対するポーランドでさえ、スイス他のサイトへやオランダと同様に対ロ貿易が大幅に増えています。一部の欧州諸国はその場しのぎの対応を好むようです。

今日のロシア社会は非常に細分化しています。人々にはそれぞれの生活があります。ロシア人は政権を支持していなくても、さまざまな理由から街頭で抗議することはありません。戦争は多くの市民にとって大惨事ですが、中には遠くの出来事でしかない人もいます。アフガニスタン戦争の時がそうでしたが、どちらの立場にも本当の意味での抗議は起きませんでした。
ロシア人は自分たちを社会の一員とみなしていないため、ウクライナ戦争を「自分たちの」戦争とは考えていません。選挙にも参加しません。投票しても意味がないからです。彼らにとって、ウクライナ侵攻は「クレムリン(ロシア大統領府)の」戦争なのです。