2023-05-08 政治・国際

台湾有事で半導体生産止まれば「世界的打撃」TSMCは欧州初の生産拠点をドイツで実現へ

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注目ポイント

米国のヘインズ国家情報長官は先週、中国による武力侵攻で世界的なシェアを占める台湾の半導体生産が停止すれば、「世界経済は甚大な影響を受ける」と発言した。そのようなリスクを分散するため、半導体受託製造の世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)は米国と日本にも生産拠点を現在建設中。さらに、念願だった欧州初となる生産拠点をドイツに建設する計画を欧州企業3社と共同で進めている。

ヘインズ米国家情報長官は4日、上院軍事委員会の公聴会で、台湾は半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)を抱えており、「台湾の半導体は世界中のあらゆる電子機器に組み込まれている」と説明。その上で、生産が止まれば米経済への影響は避けられないとしつつ、「中国経済が受ける打撃の方が深刻だ」と強調した。

ヘインズ氏は「一般的な見解」として、TSMC製の高度な半導体チップは、「世界市場ほぼ全ての分野の電子機器の90%」で使用されていると指摘。中国の武力侵攻による台湾有事で、TSMCが半導体の生産停止を余儀なくされた場合、「最初の数年間は、年間ベースで6000億~1兆ドル(約80兆~134兆円)規模の打撃になり、世界経済への影響は非常に甚大」だと述べた。

一方、台湾のトップ貿易交渉担当者は同日、米国側に対し、台湾の半導体メーカーと半導体材料生産企業による投資への補助金を求めた。

投資サミットのためにワシントンを訪れている台湾のTPP問題担当閣僚・鄧振中政務委員はライモンド米商務長官との会談で、米国の半導体産業向け補助金などを含む「CHIPS及び科学法(CHIPS and Science Act)」に基づき、台湾企業への財政支援を訴えた。同法により、米政府は税金と投資控除を活用して半導体投資を補助することにより、半導体産業に527億ドル(約7兆1000億円)を注入することになっている。

米国ではTSMCが現在、2024年の生産開始に向け、アリゾナ州で2つの半導体工場を建設中で、投資総額は400億ドル(約5兆4000億円)以上と見積もられている。これらの工場は1万人以上のハイテク分野での雇用を創出するとしている。

また、米ブルームバーグ・ニュースは先週、TSMCはドイツ東部ザクセン州にある半導体工場建設に欧州企業3社と共同で、最大110億ドル(約1兆4825億円)を投資することについて協議中だと報じた。この計画は、オランダの半導体メーカー、NXPセミコンダクターズ、ドイツの多国籍企業ロバート・ボッシュとインフィニオン・テクノロジーズと合同で、TSMCが28ナノメートル(nm=ナノは10億分の1)の半導体コンポーネントを製造する工場を建設する計画だと情報筋はブルームバーグに語った。

28nmの半導体はクルマを含む多くの電子機器や家電製品に使用され、28nmの改良版22nmと共にコストパフォーマンスに優れているとされる。現在、28nm(22nm)の半導体を生産できるファンドリー(半導体受託製造企業)は、世界で台湾のTSMCとUMC、韓国のサムスン、米グローバル・ファンドリーズ(GF)、中国のSMICとHHGraceの6社だけだ。

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