注目ポイント
チーズ、味噌、ワインなどは、時間をかけて発酵させた食品として知られている。「東方のチーズ」と呼ばれる豆腐(腐乳。豆腐に麹をつけて塩水の中で発酵させた食品)や醤油も、食文化の中で広く用いられている。台湾東北に位置する宜蘭県は醸造環境に恵まれており、かつてはどの家でも自家製の豆腐乳や醤油を造っていた。 宜蘭県の員山郷二湖地区はパイナップル産地としては台湾で最も北に位置するエリアである。この雪山山脈のふもとで、雨と陽光の恵みを受けたパイナップルと豆腐を発酵させた「鳳梨豆腐乳」が作られている。台湾で二胡の製作者として知られている李十三も、故郷へ帰って醤油を作っている。宜蘭の風土が育んできた食材と時間が醸し出す風味を、ぜひ味わってみたい。
文・郭美瑜 写真・林格立 翻訳・山口 雪菜

何世紀にもわたり、人類は食材を塩漬けや発酵などの方法で長期保存してきた。チーズや日本の味噌、韓国のキムチなどもそうだ。パルメザンチーズやブルーチーズなど、時間をかけて熟成させた美食は人々を魅了する。
宜蘭は、地形の関係で夏は台風の影響を受け、冬は季節風が吹きつけて雨が多い。そのため多くの家では発酵による保存食を作っており、中でも豆腐乳は特産品として知られている。
豆腐乳は地域によってさまざまな風味がある。日本の沖縄で作られる「豆腐よう」は紅麹で発酵させたもので、その独特の味わいで観光客に人気がある。台湾では豆腐乳はお粥のおかずとして庶民に親しまれており、プレーンなものから、三星葱、紅麹、パイナップルなどさまざまな風味のものまである。
宜蘭県員山郷の二湖地域は、砂礫状の土壌と気候の関係でカイエン種のパイナップル(土鳳梨)の栽培に適しており、台湾では最も緯度の高いパイナップル産地である。近年は自分の畑で採れたパイナップルを使った豆腐乳を作る農家が出てきて、観光客にDIY体験なども提供している。
『光華』取材班は冬の早朝、2022年に宜蘭県優質農業評選の銅賞に輝いた二湖パイナップル館を訪れた。曲がりくねった山道を行き、湖西村に車を止めると、目の前には山脈が迫り、都会の喧騒を忘れさせてくれる。
雪山のふもとに位置するこの集落は、行き交う車もほとんどない。山沿いに広がるパイナップル畑は雨と天然の湧水に育まれ、鳥や鶏の鳴き声が聞こえるだけだ。
農家の江朝清さんが私たちをパイナップル畑に案内してくれた。畑に踏み込むと、パイナップルの尖った葉が足を襲う。江朝清さんは「大股で歩けば、葉っぱは道を譲ってくれますよ」と言う。試してみると、まったくその通りだった。
江さんによれば、カイエン種のパイナップルは小粒で、金鑚パインほど甘くなく、繊維質が多くて酸味があるが、香りがよく、パイナップル本来の味わいがあるという。夏に採れたものは生食に適し、冬のものは繊維が多くて酸味があるので加工にふさわしく、豆腐乳に用いられる。

大自然が作る「東方のチーズ」
江さんは、以前は豆麹を使ってプレーンな豆腐乳を作っていたが、豆麹を発酵させるには天日干ししなければならず、秋の日照は不十分なため豆腐乳作りをやめていた。そうした中で顧客から、麹ではなくパイナップル酵素による発酵に替えてはどうかとアドバイスされ、何回も試してようやく成功した。今では四季を通してパイナップル豆腐乳を作っている。