注目ポイント
オランダ、清国、大日本帝国…そして中華民国、統治者が次々に入れ替わってきた台湾の言語事情はまことに複雑だ。現在、「共通中国語」(マンダリンチャイニーズ)が多くの場面で使用されるが、「福建語」の流れにある「台湾語」を話す人々も多く、「客家(ハッカ)語」や原住民の各部族語なども存在する。1949年に蒋介石が「中華民国」ごと台湾に逃れてきたため、広大な中国大陸の各地の言語も流入しており、日本語の痕跡も少なからず残っている。台湾の中国語を「北京語」と表現すれば政治的意図を含むとも誤解されかねない。また、北京土着の北京語、つまり北京出身者の母語である北京語との差も大きいことから、台湾の中国語を北京語と呼ぶのは間違いだという意見もある。台湾在住26年の筆者が、台湾における各言語の区別表現を考察する。
「中国語」?「国語」?「台湾華語」?
現在の台湾には「公用語」を定めず、台湾の多種多様な言語の保存と文化の持続的な発展を目的に定められた「国家語言発展法」(2019年施行)というものがありますが、学校教育は中国語(中国の普通話と同系統の標準中国語/マンダリンチャイニーズ、以下共通中国語)で行われ、公の場でも「中国語」(共通中国語)が使われることが多い社会です。台湾の住民も「共通中国語」が台湾の教育で使用される言語であり、住民同士の共通語であると認識しています。
この主に「北京官話」を元にして作られた「中国語」(共通中国語)は東南アジアの華僑、華人社会では「華語」と呼ばれていますが、最近台湾でも「華語」や「台湾華語」と呼ばれたり、書かれることが増えてきました。「国家語言発展法」の中でも「台湾華語」という名称が使われています。
ただし、第二次大戦後の国共内戦に敗れ、1949年に蒋介石とともに中国大陸から台湾に逃れてきて、台湾を統治した「中華民国」の統治体制が長く続いている関係で、今でも住民の多くには台湾の中国語を指して「国語」と呼んだり、書いたりする習慣が根強く残っています。
しかしながら、この「中華民国」体制に反感を持っていたり、あるいは相手の立場や政治意識などを尊重し、会話や文章の中で「国語」という呼称を避け、「華語」や「北京語」という呼称を使う人たちも存在します。そして、この共通中国語に対する呼称を巡って、台湾人同士で言い争いになることも度々目にします。また、台湾に深く関わる日本人同士でも論争になることがあります。

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「台湾国語」に「台湾台語」も
話は少し横に逸れますが、台湾には「台湾国語」という言語もあります。
台湾で使われている中国語を「台湾国語」と呼ぶのだと勘違いしている人がとても多いようですが、「台湾国語」は、主に中国語教育や習得の機会を逃したお年寄りが話す中国語であり、台湾語の影響が非常に強く、発音や文法、言い回しがかなり違ったものになっている中国語のことです。台湾人が話す台湾式の中国語が、中国の「普通話」とは聞いた感じが違う、各種の用語が違うということだけで「台湾国語」と呼ぶのは間違っています。「台湾国語」を「中国語」(台湾華語)とは分けて、台湾本土言語の一つとして研究している人たちもいます。
台湾で長く暮らす日本人、また商用や観光で度々台湾を訪れる日本人には、台湾で広く使われている言語は「中国語」(中国で普通話と呼ばれる言語/共通中国語/台湾華語)だけではないことはよく知られています。