2023-05-04 政治・国際

AIドローン先進国スイス 倫理問題では出遅れ

注目ポイント

スイスは技術開発分野で最先端を行くが、軍事利用を防ぐためのルール設定には消極的な姿勢を見せる。

チューリヒ大学で開発されたドローンの試作品 zVg

スイスにとって、ドローン開発とAI(人工知能)分野の最先端研究拠点であるという肩書は、とても重要だ。スイスの技術系大学の水準は世界でもトップクラス。科学論文の質や、それが研究に与える影響力を考慮すると、スイスはナンバーワンと評価される。特にチューリヒ周辺エリアはグーグルをはじめ多くの最先端企業が拠点を置き、さらに一流大学の付属研究所が林立するため「ロボット工学のシリコンバレー」として知られている。

このような最先端の研究には常にリスクが付きまとうが、研究を推進する政府がそれに触れることは少ない。しかし科学者の間では、この問題が頻繁に話題に上る。AI研究者はしばらく前から、ドローンを含むAI搭載兵器の開発競争を危惧してきた。2017年には、暗黒の未来を描写した短編映画「スローターボッツ他のサイトへ(仮訳:惨殺ドローン)」が公開され、話題を呼んだ。ヒトの操作なしで動く小型ドローンが、ターゲットの人間を追い詰め殺害する内容だ。

技術系大学の最高峰・米マサチューセッツ工科大学(MIT)のマックス・テグマーク物理学教授は「多くの政治家は、技術開発に関する知識が十分ではない」と指摘する。「(AI搭載兵器は)大量殺戮が可能な兵器なのに、おそらく誰でも手に入れることができる」。テグマーク氏は、スロータービデオを制作した非営利団体「フューチャー・オブ・ライフ・インスティチュート」を運営する。米軍の専門家ザッカリー・カレンボーン氏も、ドローン兵器には化学・生物兵器に匹敵する危険性があると訴えている。

自律型致死兵器システムは近年、現実となりつつある。2021年にはイスラエル軍がドローン群をパレスチナのガザ地区に向けて発射した。AI搭載技術が戦地で実際に使用されたのは初めてだった。また2022年秋、イスラエルの軍需品生産企業「エルビット・システムズ」は、自律的にターゲットを察知するドローン「LANIUS」を発表した。兵士がスイッチを押すだけで、たちまち殺人マシーンに変化するドローンだ。ひとたび起動させると、ターゲットを狙撃したり、標的の内部に潜り込んで爆発したりする。攻撃の意思決定とドローン技術、AIが切れ目なく連携する共存関係を構築している。

現在のところ、これらの殺人兵器は人間が引き金を引くことで作動し、その結果に対する責任も人間が負う。しかし、この構図は変わるかもしれない。2020年、リビアで自律型致死兵器システム(LAWS)が実装された。どのような状況で使われたのかは不明だが、国連が発表した報告書によれば、トルコ製ドローン「Kargu-2」が人間の操縦なしでターゲットを攻撃したという。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい