2023-05-02 政治・国際

「タックスヘイブン」スイス 法人税改革でもイメージ払拭は困難か

注目ポイント

スイスの有権者は6月、多国籍企業の最低法人税率を15%に定める国際課税ルールを巡り、国内での実施の是非を判断する。賛成派はスイスがタックスヘイブンという汚名から解放されると主張するが、それだけでは不十分だと批判する声もある。

ジュネーブにグローバル本社を置く日本たばこ産業(JTI)は、法人税の最低税率変更の影響を受けるとみられる数百社の多国籍企業の一つだ Martial Trezzini/Keystone

米国の司法省、財務省、税務当局が、いわゆる「ゴードン報告書他のサイトへ」でスイスを「現代タックスヘイブン(租税回避地)の原型」と痛言してから40年以上が経つ。この間、スイスは特別税制の廃止、他国との税務情報の共有、税の抜け穴をふさぐなど、様々な改革を実施してきた。

だがそれでも、多国籍企業の税金逃れを許す最悪の国の1つとしてスイスは繰り返し名指しされ、非難されている。スイスは2021年、各国の法律や政策が税金回避に寄与する度合いを評価する「コーポレート・タックスヘイブン・インデックス他のサイトへ」で、オランダや租税回避地として悪評高い英国領バージン、ケイマン、バミューダ諸島に次いで5位にランクされた。

スイスの法人税率は世界でも最低水準で、グレンコアなどの大手多国籍企業が本社を置くツーク州は約11%だ。

だが経済協力開発機構(OECD)の主導で2021年に130カ国以上が合意した最低法人税率15%を実施するために、今年6月にスイスの有権者が憲法改正案を可決すれば状況は一変する。可決されれば、新税率は2024年から適用される。

当初は難色を示していた企業団体も、この最低税率ルールを支持し始めている。多国籍企業の納税額が増えても、スイスがようやくタックスヘイブンであるという汚名を返上するチャンスになると考えるからだ。

セメント最大手ホルシムで国際税務を担当するカリン・ウザン・メルシエ氏は、経済ロビー団体「スイス・ホールディングス」と経済連合「エコノミースイス」が3月に開催したメディアイベントで、「スイスは国際社会に対し、スイスにはルールがあり、透明性があり、新しい納税秩序を守っていることを示すために長年努力してきた」と述べた。

「もし最低法人税率を導入しなければ一歩後退することになり、国際社会に対して非常に奇妙で矛盾したメッセージを送ることになる」

 

ゲームチェンジャーとしては不十分

国際的に正式なタックスヘイブンの定義はないが、一般的には税率がゼロか極端に低いことが重要な特徴とされている。その他には、金融業界の秘密主義の強さや、節税目的で多国籍企業が低税率の国や地域に利益を移転することを容易にし、現地、特に発展途上国の税収を妨げるような法律や政策も挙げられる。

世界の平均法人税率は過去40年間で約45%から25%に低下し、何十億もの税収が低税率地域に流れた。新たな最低税率ルールは、法人税率引下げ競争の抑止を狙う。

スイスでは州が独自に税率を決めるが、法人税率が15%になればほとんどの州が、大手多国籍企業に今より高い実効税率を課さざるを得なくなる。また、製薬業界を含むスイスの産業の多くが享受してきた特許ライセンス収入に対する低税率(いわゆるパテントボックス制度)などの、一部の税制優遇措置も失効する。

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