注目ポイント
スイスでは、転職活動者が増加の一途をたどっている。空前の労働力不足により、求職者と企業の立場は逆転。売り手市場を追い風に、転職を重ねる若者の事情を追った。
チューリヒ経営大学(HWZ)で人材管理&リーダーシップセンター長を務めるマティアス・ムレネー氏は、ドイツ語圏の日曜紙NZZ・アム・ゾンターク他のサイトへのインタビューで、統計上は転職理由のトップが収入増への期待だと語った。ただこの10年に起きた大きな変化として、適切な「評価」を求める転職が増えているという。「人々は雇用者から人間として認められたいのだ」
若い被雇用者は、必ずしも現状に不満で転職するわけではない。新たな発見を求めて転職する場合もある。ヴォー州で機械エンジニアを務めるマヌエラさん(仮名・31歳女性)は、既に2度の転職を経験している。「卒業したての頃は好奇心旺盛で、様々な仕事を試してみたいと感じるものだ。共に学んだ友人は皆、卒業後に職場を2~3度変えている。各企業での勤務年数は2年ほどだ」
履歴書よりリンクトイン
こうした流れを受けて、採用方法にも変化が起きている。求人サイトに広告を出すだけのやり方は、完全な時代遅れとなった。引く手あまたの人材であるマヌエラさんは、現在の仕事について「前職を通じて知り合った人が、交流サイトのリンクトイン上で私を見つけたことがきっかけだった。経営者から連絡が来て、もう一度転職するよう説得された」と説明する。
ジュネーブで英系人材紹介会社マイケル・ペイジのディレクターを務めるアントニー・キャフォン氏は、志望理由などを書くカバーレターの作成や形式的な履歴書の送付は、もはや主流ではないと言う。代わりに、リンクトインが有能な人材の「取引所」的役割を果たし、採用担当者が基本情報を得る手段となっている。最近導入された新機能で、ユーザーは興味ある求人に[Easy応募]ボタンから簡単に応募が可能だ。同氏は「2カ月かけて4回の面接を行う従来の採用プロセスでは、応募者の8割がやる気を失う」と指摘する。
度胸ある若年層を惹きつけるのが、スタートアップだ。こうした企業は創業間もなくしてインパクトの創出と急速な成長を目指すが、半年後に全てを失うリスクもはらむ。一方で、銀行や保険会社など伝統的なセクターの人気は、完全に下火だ。スイスの人事コンサル会社Air HR Global Solutions創業者のフレデリック・ロジェ氏は「20~30代は刺激を求めている」と分析。「組織図や権力を嫌い、直属の上司には強いリーダーシップと素早い決断力を期待する。こうした世代に最適なのは、アジャイルな環境。すなわち、反応が早く、柔軟で協調性のある職場だ」