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中国当局による言論弾圧が、ここにきて一段と強まっている。中国政府は26日、消息不明になっていた台湾の出版社「八旗文化」の編集長・李延賀氏について、身柄を拘束し、国家の安全保障を損なう活動に関与した疑いで捜査していると発表した。また、中国共産党の有力紙・光明日報の元論説部副主任もスパイ罪で起訴されたことが25日判明した。中国では「反スパイ法」が改正され、定義を拡大し、摘発がさらに強化される。
米ブルームバーグ・ニュースによると、国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮報道官は26日、北京での定例記者会見で、身柄を拘束している台湾の出版社「八旗文化」の李延賀(ペンネーム=富察)編集長について、李氏の権利は保護されると説明したが、詳細には触れなかった。
複数の台湾メディアは25日、消息不明となっている李氏について、中国で身柄を拘束されている可能性を報じていた。「八旗文化」は、中国の汚職や富の不平等などの問題を探求した「チャイナズ・クローニー・キャピタリズム」(ミンシン・ペイ著)や、昨年6月に発売された中公新書「新疆ウイグル自治区」(熊倉潤・著)の中国語版など、中国共産党に批判的な書籍を多数出版している。
これまでの報道によると、知人の作家が20日、自身が入手した情報として、「李氏が3月初旬に中国にいる親戚を訪れた後、上海で警察当局に逮捕された」とフェイスブックに投稿した。知人によると、同氏は中国出身で、親類と台湾に移住した。台湾の中央通信社(CNA)は、台湾当局が李氏の家族と対応を話し合う予定だと邱太三・大陸委員会主任委員の話として伝えた。
中国では26日、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会の会議が「反スパイ法」の改正案を可決。改正により、スパイ行為の定義が拡大され、外国人への締め付けも厳しくなることが懸念される。
これまで取り締まり対象としてきた「国家機密」の提供などに加え、「その他の国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料、物品」の提供や窃取などもスパイ行為となる。改正・反スパイ法は7月1日に施行される。
そんな中、中国では中国共産党の有力紙・光明日報で論説部副主任を務めた董郁玉氏(61)が、中国当局にスパイ罪で起訴されたことが25日、分かった。ワシントン在住のジャーナリストらで構成するナショナル・プレス・クラブが解放を求める声明を発表した。同氏は著名な改革派知識人で、日米の外交官やメディア関係者らと長年親交がある。
声明によれば、董氏は昨年2月に北京市内のレストランで会食していた日本大使館員とともに身柄を拘束された。それ以来、勾留されたままで、同氏の家族は中国の検察当局が同氏をスパイ容疑で起訴し、この事件が裁判所に送られたことを3月に知らされたという。家族らは容疑について、政府に反対する意見を弾圧するためのでっち上げだと主張している。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは董氏の家族の話として、裁判がいつ開始されるかは明らかではないと伝えた。中国の法律ではスパイ行為に対し、3~10年の懲役から無期懲役までの重い刑罰が科される可能性がある。また、特に重大な被害が生じたと判断される犯罪では、死刑に処される場合もある。