注目ポイント
中国が欧州との関係悪化に苦慮している。駐フランス大使の旧ソ連諸国の主権に関する発言が各国から非難を浴びる一方、上海モーターショーでは独自動車大手BMWの行動を巡って同社の不買運動が起きるなど、このところ欧州との距離が広がるトラブルが続く。米国が主導する中国包囲網切り崩しのため、欧州を味方に付けたい中国だが、ちぐはぐな動きが目立っている。
「クリミアは当初ロシア領」発言が炎上
盧沙野・駐仏大使の発言は、4月21日に放送されたフランスのテレビ番組で飛び出した。クリミア半島がウクライナの一部かどうかを問われて、「クリミアは当初はロシア領だった。ソ連時代にウクライナに渡された」などと答え、帰属については明確にしなかった。さらに、ウクライナを含む旧ソ連圏内の各国に関して「主権国家としての具体的な地位を定めた国際的合意は存在しない」と述べた。

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この発言に、関係各国は強く反発した。旧ソ連から独立したバルト3国の一つ、ラトビアのリンケービッチ外相は「全く受け入れられない。撤回を求める」とツイッターに投稿。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問も「全ての旧ソ連の国々は、国際法によって主権を有していることは明らかだ」と反論した。
これを受け、駐フランス中国大使館は、発言は盧氏の個人的見解で、「過剰な解釈をすべきではない」との声明を発表。中国外務省の毛寧報道官も記者会見で「中国は旧ソ連諸国の主権と国家としての地位を尊重している。私は中国政府の正式な立場を代表している」と盧氏の発言を否定するなど、火消しに努めた。
アイス配布不手際が発端で「BMW車買うな!」
上海モーターショーでの事件は4月19日、BMWの小型車「MINI」の展示ブースを訪れた中国人女性が、現場で配っていたアイスクリームを求めたのに対し、スタッフが「配布は終了した」と断ったのがきっかけだった。
その直後に来た外国人男性にはアイスクリームを渡す動画がSNS(交流サイト)で拡散したため、視聴者の間で「中国人差別だ」との声が広がったのだ。

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この騒動を中国メディアも報じ、20日には欧州の市場でBMWの株価が3%以上も下落。BMW側は中国版ツイッター「微博」で謝罪の声明を公表したが、BMWのブース前では連日、来場者が自ら買ったアイスクリームを配って抗議の意思を示すなど、混乱は収まらなかった。
事態を重く見た中国当局は、ブース前でBMWを批判する動画中継をしていた中国人女性を連行するなど、沈静化に手を貸した。だが、SNS上では「BMW車を買うのはやめよう」と不買運動展開を呼びかける意見も多数投稿されている。
中国を主要市場の一つとするBMWには大きな痛手となっており、ドイツと中国の関係にも亀裂を生みかねない情勢だ。
「第三極」目指すマクロン仏大統領の発言にも水
このように欧州と中国の関係は、習近平政権の思惑とは逆方向に進んでいる。
習政権は米国が対中強硬姿勢で西側陣営の足並みをそろえようとするのに対抗して昨年来、ドイツのショルツ首相やマクロン氏、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長らを相次いで中国に招き、欧米間にくさびを打ち込もうと躍起になっているところだ。