2023-04-17 政治・国際

【上水流久彦の水準器】② 政治問題化する「桃園県忠烈祠」と「桃園神社」

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注目ポイント

台湾北部・桃園市にある「桃園忠烈祠曁神社文化園区」(桃園忠烈祠・神社文化公園)が揺れている。日本統治時代の「桃園神社」建物がほぼ原形をとどめているが、戦後は辛亥革命以来の革命家や、中国大陸での日中戦争などで戦没した中国兵士の霊を祭る「忠列祠」となった場所だ。公園の運営を任された民間事業者が、一角に日本の神を祀る神社を設けて活性化を図ったところ、「抗日運動犠牲者も祀られている忠烈祠に、日本の神を祀るのは問題」と地元市議が指摘。市の判断で神は神社以外の場所に遷座させられ、「祀っていた神は今後日本に戻す」という騒動に発展した。前回詳報した経緯に加え、今回は台湾の日本統治時代の建築物の今をどう考えるべきかを模索してゆく。

「何を祀るか」大学教授が批判

桃園忠烈祠・神社文化公園の運営を任された民間事業者によれば、イベント等を企画・実施するこの会社にとって集客は大きな課題ではなかった。最も気を使ったのは、日本の神々を正しく祀っているかであったという。

神道関係者(日本人)に顧問になってもらい、新桃園神社を建立するにあたって内部の写真や所作の動画を見せながら、ひとつひとつ丁寧に確認をしたという。

集客力の向上は運営上不可欠なのだが、日本文化への理解、尊重も重要だと語った。筆者のインタビューでは、神々に失礼がないよう神経をかなり使っている姿勢がひしひしと伝わってきた。詔は日本語であったし、神官の姿をした人物は沖縄のある神社に行き、種々学んできたと語った。

現在、台湾各地には、植民統治期の日本人(日本神)を祀る廟が多くある。それらの人物は神道ではなく、台湾のしきたりで祭祀されている。三尾裕子編著『台湾で日本人を祀る 鬼から神への現代人類学』(慶應義塾大学出版会、2022年)などを参考にされたい。民間事業者は、このような神々の祭祀とは全く対照的に日本の神々を日本の作法で祭祀しようとしていた。

第二次世界大戦で亡くなった軍人を神として祀る高雄の保安堂=2023年3月13日、筆者撮影

このような考えが逆に批判を招いたともいえる。日本神のように祀っていれば、または大國主大神等の神々を祭祀せずに社務所を本殿としてだけ利用していれば、良かったのかもしれない。輔仁大学の何思慎教授は投稿「桃園神社 會錯意表錯情(勘違いするな、相手を間違えるな)」(2023年1月1日付『中国時報』)で、日本の神々を忠烈祠で祭祀することを批判し、日本の祖先崇拝と関わる神道は日本人と一体であり、今回の日本の神々を祭祀することは神道の神への敬意もないと指摘し、「桃園市は勘違いするな、台湾の人々は愛情を注ぐ相手を間違えるな」と警鐘を鳴らした。

彼が屏東県高士神社での祖先祭祀や牡丹社事件の犠牲者慰霊には理解を示していることから、彼の批判の焦点は神社の祭祀場所としての利用ではなく、「何を祀るか」にあることがわかる。

政治的対立背景に議論百出

この批判に対し、民間事業者も参拝者等も大きな問題とは当時とらえておらず、民間事業者は、「気にすることはない。ごく少数の人の考えだ」と一蹴した。また、前回紹介した高雄からわざわざ来ていた男性も同様の反応であり、長年文化公園でボランティアをする人物も全く同じ反応であった。筆者の台湾の友人複数名に投稿を見せたが、中国時報という媒体(統一派の色が濃いと台湾では見なされている)や投稿者の政治的立場(現在の政権とは距離があると友人たちは指摘した)を指摘し、ひとつの考えでしかないと解説した。

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