注目ポイント
冷蔵設備などなかった時代、食材を長期間保存するのは容易なことではなかった。しかし、昔の人は天然の資源を用い、知恵と創意を発揮して、忘れがたい美味を生み出した。例えばイタリアのパルマハム、スペインのイベリコ豚の生ハム、金華ハム、湖南の臘肉などが挙げられる。

文・鄧慧純 写真・莊坤儒 翻訳・山口 雪菜
台湾にも、これらの古い技術と滋味が残っている。塩漬けにし、天日で干し、煙で燻すといった技である。エスニックごとに台湾の自然環境に適応し、本来は保存の難しい肉類を煩雑なプロセスで処理することで、その土地ならではの味を生み出してきたのである。

保存食の科学
これらの方法は、現代科学の角度から見ても理にかなっている。食物が腐敗するのは、主に微生物の活動と繁殖による。そこで微生物の活動に必要な水分を抜くというのが重要な要素となる。食物を日光や風にさらして水分を抜くというのが昔から行なわれてきた方法だ。
このほかに、濃度の高い砂糖や塩、酢などで味付けをすることでも食物が食べられる期限は延びる。中でも塩漬けという方法は、各民族の間で昔から伝わってきた。浸透圧の原理を用いて食物の水分を抜くのである。
さらに、密閉された空間に食物を吊るし、煙で燻す方法がある。いわゆる燻製である。燻製と塩漬けには同じように殺菌の効果があり、食べ物の保存期間を延ばすとともに、独特の風味を加える手法でもある。
台湾では数百年にわたってさまざまなエスニックが暮らしてきたが、それぞれが故郷から、自然に適応して生きるための技能を持ってきており、それが人々の食の風味を豊かで多様なものにしてきた。これらはまた庶民の生活の記憶を形成してきたのである。

燻した臘肉の味わい
台湾の多様な食文化の一部は、1949年に国民政府とともに大陸から渡ってきた軍や移民とともにやってきた。嘉義県水上郷の「星沙齋湖南臘肉」もその一つである。
経営者の李嘉陵さんは外省人の二世で、父親は空軍を退役し、臘肉(中華の塩漬け干し肉)作りを副業としていた。だが、当時は春節前などに親戚や友人に頼まれて作るだけだった。台北に出て働いていた李嘉陵さんは、40歳の時に帰省し、父の故郷の味を事業として経営することにした。しかし、消費者向けに量産してみると、数々の問題に直面した。腐ってしまったり、口当たりが悪いなどの問題が起き、それらの問題を一つずつ克服し、ようやく製造プロセスが確立した。今ではこの事業も35年になる。
午前8時半、従業員は冷蔵室から腸詰と臘肉を取り出し、天日にさらす準備をする。「腸詰は少なくとも6~7日は干す必要があります」と李嘉陵さんは言う。年末のシーズンに入ると、写真愛好家が集まってきて、青空の下に並べられた赤い臘肉の写真を撮っていく。
「臘肉は乾燥した寒冷な気候で干すのが理想ですが、台湾は湿度が高いので、あまりふさわしくありません」と李嘉陵さんは言う。そこで冷房を使うことになり、夜は冷蔵室で4℃の冷気に当て、昼間は日光にさらす。天日干しするには、太陽が出ていて風がなければならず、「まさにお天道様しだいの商売です」という。日差しが強すぎても良くない。早く乾いてしまうので発酵の時間が不十分となり、おいしくならないのである。