2023-04-12 政治・国際

中国を恐れるスイス、台湾との科学技術協定に消極的

© Picture Alliance / Wiktor Dabkowski

注目ポイント

スイスはこれまで中国の経済的報復を恐れ、台湾との科学面での提携強化を拒んできた。だが中国優先の方針は、世界最大の半導体生産者である台湾との関係構築を阻害するとの懸念も広がる。

台北にある電子回路の壁。台湾は半導体チップの生産・輸出で世界をリードする Picture Alliance / Wiktor Dabkowski

スイスもほとんどの国と同様、中国政府が自国の一部だと主張する台湾を公式には国家として承認していない。それでも多くの先進国は、台湾との関係を進展させようとさまざまな方法を模索している。しかしスイスは依然として消極的だ。その消極的な姿勢は、台湾が世界をリードするマイクロテクノロジーやナノテクノロジーの分野での協力関係にも及ぶ。

「一つの中国」政策は、中国という名で承認された1つの主権国家とのみ外交関係を維持することを義務付ける。スイス連邦政府はこれまで、台湾との科学技術協力を強化する二国間協定が同政策に反するとして、締結を拒否してきた。スイス連邦議会の一部議員からは、同国政府のこうした姿勢を短絡的だと指摘する声も聞こえる。同じ価値観を共有する民主国家との連携強化は、地政学的にも重要だという考えが理由の1つだ。

左派・社会民主党(SP/PS)のファビアン・モリーナ議員は「アジアでスイスが良好な関係を築くべき国が1つあるとすれば、それは台湾だ。手段はそろっているが、(実現には)ある程度の政治的意思を要する」と語る。同氏は今年2月上旬、スイス・台湾友好議員団の一員として台湾を非公式に訪問した。

2023年2月6日、台湾・台北の総統府で蔡英文(ツァイインウェン)総統(写真中央左)と面会したスイス・台湾友好議員団のファビアン・モリーナ議員(同中央右) Keystone / Makoto Lin/taiwan Presidential O

様々な国の研究団体や機関が、台湾との間で覚書や二国間交換枠組みプログラムを締結している。しかし、そのことで「一つの中国」政策の順守に疑問の声が上がることはない。

スイスにも、台湾の大学との研究交流や協力関係は存在する。しかし、スイス政府や政府研究機関は一般的に「一つの中国」政策をより厳格に適用している。科学、技術、革新の分野で台湾との提携拡大・強化を求める動議が却下されたことは記憶に新しい。

中国学が専門のシモーナ・グラーノ・チューリヒ大教授は「スイスは、中国政府にとって非常に好ましい形で『一つの中国』政策を解釈している」と語る。

経済・貿易の分野で、欧州諸国や米国は中国を競争相手とみなす。一方、スイスにとって中国は何よりもまず、重要なパートナーだ。2013年に中国と締結した異例の自由貿易協定(FTA)により、スイス企業は対中輸出で数億フラン(当時のレートで約120億円)の費用節約に成功した。対外経済政策に詳しいチューリヒ大学のパトリック・ツィルテナー教授は「これは、中国政府がスイスのために維持している優遇措置だ。しかし、スイス政府の方針が気に入らなければ、いつ廃止されてもおかしくない」と説明する。

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