注目ポイント
トランプ米前大統領は、刑事訴追にもかかわらず、来年の選挙出馬にいささかの揺るぎもみせていない。支持者の結束が固まってむしろプラスになるとの目論見も現実になりつつある。裁判は来年早々、候補者選びの予備選とほぼ同時に開始される見通しだが、元最高権力者の起訴という前代未聞の事態だけに、法廷の展開次第では、想定外の事態が生じ混乱に陥る可能性も否定できない。
ついに、というべきか、まさかというべきか。
トランプ前大統領の起訴、予想はされていたものの、現実になってみるとやはり衝撃、波紋は大きい。
重大犯罪か政治的弾圧かをめぐって、法廷では、検察、弁護側の激しい攻防が予想される。トランプ氏は来年の大統領選に向けてなお意気盛んだ。
前例のないケースだけに、裁判の展開次第では、憲法、法律が想定していなかった未知の事態を引き起こし、政治、司法が解決策を探らなければならない事態を排除できない。
有罪なら「100年の刑」の可能性も
トランプ起訴の詳細については、すでに報じられている。
起訴状によると、前大統領は、当選した2016年の選挙で、自らの不倫など選挙戦に不利になる情報流布を恐れて相手の女性ら3人に口止め料を支払った。その際、「弁護士費用」などと虚偽の記載によって帳簿など業務記録を改ざん、計34件にのぼる不正記載を行った。
支払い相手には13万ドル(1700万円)を受け取った元ポルノ女優も含まれている。
ニューヨーク州の法律では、業務記録改ざんは重罪ではないものの、ほかの犯罪を隠す意図があった場合は別だ。
最高で禁固100年以上の刑になる(ロイター通信)という見方もあるが、実際は短期間になる見込みだという。
口止め料の出どころは選挙資金だった疑いがあり、流用を禁じた法律に違反するため、虚偽の業務記録で隠そうとしたのではないかと指摘されている。

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議論あった退任大統領に対する訴追
大統領を退任した人物は民間人となり、犯罪の容疑があれば刑事訴追されるというのが通説だが、政治的動機によるという批判、将来にわたる訴追の連鎖を避けるために、それをしないというのが司法省の従来の方針だった。
クリントン政権の末期、大統領の不倫・偽証疑惑を捜査したケネス・スター特別検察官(当時、故人)に筆者がインタビューした際、スター氏は「(大統領も)職を退けば、法による庇護と義務が適用される」と述べ、訴追が可能であると明言した。
しかし、「大統領職は特殊であり、その立場は尊重されなければならない」とも述べ、法律専門家の間でも見解が分かれ、容易に結論の出る問題ではないことを力説した。
クリントン氏は任期終了後も訴追されることはなかった。

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公選検事、〝公約〟を実行か
トランプ大統領に対する訴因である口止め料支払いは、氏にまつわる疑惑の中でも初期の、しかも個人的なスキャンダルの色彩が強かった。
これに比較すると、氏が国家安全保障をふくむ多くの機密文書をひそかに持ち出して私邸に保管していた事件は、より深刻だ。