2023-04-10 経済

スイスで最低法人税率15%が国民投票に 争点は税収の分配方法

注目ポイント

6月18日、スイスの有権者は、多国籍企業に課される法人税の改革について是非を問われる。争点は、税の公平性やビジネス拠点としての競争力、増収分の分配方法だ。

企業の今後の動向も不透明だ。スイスは国土の広さに対して大企業や外資系企業の数がきわめて多く、税率引き上げの対象となるのはその中の約2千社と推測されている。一方で約60万社を数える中小企業(SME)は、売上高が7億5千万ユーロに満たず、対象外だ。

賛成派の意見は?

連邦政府と連邦議会及び各州は、今回の憲法改正案を強く支持している。最低税率導入が不可避ならば、せめて税収基盤は国内にとどめるべきとの観点からだ。

それというのもスイスがこのOECDルールに従わない場合、15%との差分は他国が課税できることになっている。そうなれば税収が外国に奪われる、というのが賛成派の訴えだ。

スイスの従来の税制について、賛成派は「立派な成果を上げてきた」と称賛する。経済連合エコノミースイスは、大手多国籍企業はこれまで「社会・教育分野などの公共サービスの拡充にとって大事な財源となってきた」と評する。

財政的影響の規模は?

連邦財務省の概算では、改革による増収効果は10億〜25億フラン(約1450億7千万〜3622億8千万円)。スイス全体の法人税収は総額約140億フランだ。

増収分の配分は?

連邦議会では、OECDの基準を満たす方向で全政党が法案の大筋に合意した。一方、増収分の分配を巡っては、該当企業の法人税納付先である州の取り分とするのか、それとも公益のための支出をまかなうため国庫により多くを振り向けるべきなのかで議論が紛糾した。

今回国民投票にかけられる案では、増収分の75%が州に、残り25%が連邦政府に振り分けられる。

全ての州は、州間の財政力格差を調整するために設けられた全国財政調整制度を通じて配分にあずかる。課税対象企業の拠点州や連邦は、この資金を元手に拠点としての魅力を別の形で推進する。

州の取り分はリベートのような機能を持ち、さらに3対1に分配される。75%の主な受け取り手は、納税対象である大手多国籍企業の所在州となる。これら経済力のある州が法人税率で優位性を失っても、別の形で競争力を高められるようにという思惑だ。例えば、その資金を元に他の税金を引き下げることも可能だ。

州の取り分のうち残り25%は、全国財政調整制度を通じて全ての州に分配される。

連邦の取り分のうち約3分の1も、全国財政調整制度に投入される。残りの3分の2は、ビジネス拠点としてのスイスの魅力を高めるための施策に使われる。例えば教育、研究、技術革新の強化や、熟練労働者の不足への対策としてワークライフバランスを改善することが想定される。具体的な施策は、連邦政府・議会が追って決める。

反対派の意見は?

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