注目ポイント
6月18日、スイスの有権者は、多国籍企業に課される法人税の改革について是非を問われる。争点は、税の公平性やビジネス拠点としての競争力、増収分の分配方法だ。

改革のきっかけは、主要20カ国・地域(G20)や経済協力開発機構(OECD)など外部からの揺さぶりだ。OECDは2021年、巨大多国籍企業の法人税率の下限を一律15%にする新ルールの導入を決めた。現在138カ国が合意している。
世界規模で税の公平性を期するための決定だったが、条件は比較的緩い。年間売上高が7億5千万ユーロ(約1070億2千万円)を超える企業が対象だ。
税制改革がスイスに及ぼす影響は?
これまで多国籍企業は、利益を合法的にタックスヘイブン(租税回避地)に移転することで法人税の節税や回避を行ってきた。
OECDが主導する最低税率導入は、国際的な税率引き下げ競争の抑止効果も狙う。租税競争は数十年来過熱の一途をたどっており、少数のタックスヘイブンと多くの多国籍企業が、それに乗じて潤ってきた。
逆に割を食ったのは、インフラコストが高く財政的柔軟性に欠ける米仏など多くの経済大国だ。
特に米国は、グーグル、フェイスブック、アップル、アマゾンといった国内IT大手の「課税逃れ」に悩まされてきた。そのため最低税率と同時に、デジタル課税も議論されてきた。目指すのはともに、課税の公平性だ。
今スイスがなすべきことは?
スイスで法人税は州の管轄だ。OECDの最低税率ルールを導入するに当たり、15%との差を連邦の「補完税」新設で補うため憲法改正が必要だ。そのため国民投票で有権者の審判が仰がれる。
スイスの法人税の現状は?
法人税率が15%に満たないのはスイス国内26州のうち21州。一部の州では大幅に下回る。つまりこれらの州は、低税率をうたって企業を誘致してきた。これより低い税率を設定しているのは、英属領ガーンジー島やカタール、ハンガリーなど典型的なオフショア地域しか無い。欧州におけるスイス最大の競争相手は、一貫してアイルランドだ。
スイスは自国の低税率政策を、高い賃金や立地コストの埋め合わせ、ビジネス拠点としての魅力といった観点から説明することが多かった。
税制改革が立地条件に及ぼす影響は?
税制改革によってスイスは、ビジネス拠点として重要なアドバンテージを短期的に失う。税制上の優位性をアピールできなくなるからだ。
カリン・ケラー・ズッター連邦財務相もその点は認めるが、克服はできるとみる。先日の日刊紙NZZでは「大手多国籍企業をめぐる国際的租税競争は抑えられる」としつつも「スイスには政治的安定や法的確実性、優れた労働力、革新的で適応力の高い経済的環境など多くの切り札がある」と述べている。
最低税率が経済に与える影響は?
とはいえ、新ルールへの対応がスイス経済に影響を及ぼすことは必至だ。ただし具体的にどんな影響が出るかは、連邦政府にとっても「不透明」だ。租税競争の仕切り直しに向けた他国の動向がまだ不明なせいもある。しかし、新たな競争が始まることに疑いは無いようだ。