注目ポイント
コロナ禍で深手を負った中国経済。都市部の若者の失業率は18%の高水準に達し、雇用の受け皿も乏しい。1千万人超という大卒者の間では、「卒業即失業」と自嘲気味にささやかれているほどで、競争に疲れたのか、若者らの寺院参拝が大流行だ。SNS上では文豪、魯迅の小説に登場する人物の零落ぶりにわが身を重ねるケースも目立ち、習近平指導部はこうした風潮を強く警戒。魯迅の作品は教科書から徐々に減らされている、とも。
中国の習近平指導部が何かに駆り立てられるように外交攻勢を活発化させている。対立するイランとサウジアラビアの関係正常化を仲介、ロシアと共に米欧に対抗する姿勢を誇示したかと思えば、フランスに接近して米欧の結束を揺さぶる。
3月に国家主席として3期目入りした習氏は、大国外交を長期政権の最優先事項に据えたとみられる。一方、こうした取り組みは中国国民には必ずしも響いていないかもしれない。
習氏が意気軒昂とモスクワを訪れ、プーチン大統領と国際秩序の行く末を語る中、中国では将来を不安視する若者たちの間で空前のお寺参りブームが起きていた。国際社会が警戒する野心的な外交も、習氏の足元を透かしてみると別の側面が浮かび上がる。

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高学歴の失業者
「100年ぶりの変革期が訪れている。われわれが共に推進していこう」。
3月、国家主席として3期目入りしてからの初外遊でモスクワを訪れた習氏は、顔を上気させてプーチン氏にこう語りかけた。ウクライナに侵攻し、米欧の制裁を受けるロシアに対して〝今が踏ん張りどころだ〟と激励するかのような一幕だった。
中国の秦剛国務委員兼外相は、習氏の訪ロについて「中ロ両国は世界の多極化と国際関係の民主化を進める。これは時代の進歩と歴史の発展の正しい方向性であり、両国関係を超えた世界的な意義がある」と総括した。
中国当局が3期目の外交デビューを華々しく演出する中、中国国内ではもっと身近な話題として38歳で失業者となった高学歴の男性が注目を集めていた。
この男性は名門大学で中国哲学を専攻し、修士課程を修了したエリート。かつては著名メディアの記者として働いたり、創業したりしたこともある。しかし不況のあおりを受けて半年間ほど失業状態となり、現在は食事宅配サービスの配達員のアルバイトで食いつないでいる。
中国の就職市場では35歳以上はお払い箱となるケースが多い。男性は月収2千元(約3万8千円)のメディア実習生の募集すら門前払いを受けた。
「家族に罵られ、大家からは家賃の催促をされる。精神が崩壊しそうだ」と交流サイト(SNS)に投稿すると、同情と共感が広がった。
新型コロナウイルス禍で深手を負った中国経済は消費回復の兆しがあるものの、都市部の若者の失業率は依然として18%の高水準に達している。大学卒業者は1千万人を超えるが、雇用の受け皿は乏しく、「卒業即失業」という言葉が自嘲気味にささやかれている。
当局は内需拡大による景気回復を期待するが、不況下の若者の行動は慎ましい。中国では今年に入り、寺参りが大流行している。中国メディアによると、国内の寺院関連施設の入場券予約は前年同期比310%増となり、中でも若者が目立って増えているという。受験や就職、出世競争に疲れた人々が精神的な癒しを求めているためだと指摘される。