2023-04-09 政治・国際

スイスの新型コロナワクチン、期限切れで大量廃棄へ

注目ポイント

スイスの倉庫には、未使用の新型コロナウイルスのワクチンが山積みになっている。在庫は今後も膨らみ続ける様相だ。需要の低迷に加え、発展途上国への寄付は複雑な手続きが必要なため、期限切れワクチンが大量に廃棄されている。

だがこういった約束をよそに、最新データによるとスイスがこれまでに他国に譲渡したのは480万回分にとどまる。別の330万回分はまだその手続き中だ。WHOとGaviワクチンアライアンスが立ち上げたコバックスでは、これまでに合計19億回分のワクチンが146カ国に寄付された。

スイスのような裕福な国なら、コバックスや二国間契約を通じ、より多くのワクチンを提供できたのではないだろうか?

BAGのミン氏は、これまで新型コロナワクチンの余剰分を転売する機会がなかったと説明する。「多くの高所得国は、スイスと同じ戦略でワクチンを調達し、供給確保のために余剰は許容していた。その結果、昨年初めから世界中で供給過剰に陥った」

スイスはコバックスを通じた寄付を優先したいが、貧困国からの需要は「低い水準で低迷している」という。

ワクチンの譲渡には、ワクチン製造業者、コバックス、連邦政府の間で複雑な三者間協定が必要になる。交渉完了前にワクチンの有効期限が切れてしまうことも珍しくない。

パブリック・アイのドゥリッシュ氏は「数百万回分を破棄し、残りはコバックスに譲渡しようとしたが、製薬会社に拒否権があり一筋縄では行かない。他の国に転売したくても必ず許可がいるため、思うように進められない」と言う。

パンデミック当初、ワクチン供給を巡り政府と製造業者との間で行われた「お粗末な」交渉の結果、契約書にありとあらゆる守秘義務が課され、製薬企業が「最終決定権」を持つことになったと同氏は批判する。「同意によって政府は人質に取られたようなものだ。私に言わせれば、それが今回の重要な教訓だ」

将来のパンデミックに備えて

感染症のパンデミックが将来発生した場合の対応について、WHOは条約の策定に向けた協議を開始した。次の大きな健康危機が発生した場合の対応強化や公平化が狙いだ。

WHOは2月、加盟国と各種NGOに対し、ワクチンに関するいくつかの条項を盛り込んだ草案「ゼロドラフト他のサイトへ」を発表した。その1つには、政府は開発された検査、ワクチン、治療法の2割を貧困国用に確保すべきだという提案が含まれる。今回のパンデミックの「壊滅的な失敗」を繰り返さないためだ。

同草案は今後、長期間の交渉を経て、来年まで討議される見通しだ。焦点の1つは知的財産権で、製薬大手を抱える豊かな欧米諸国からの抵抗は必至だろう。

編集:Sabrina Weiss、英語からの翻訳:シュミット一恵

 

この記事は「SWI swissinfo.ch 日本語版」の許可を得て掲載しております

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