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2023-04-07 政治・国際

【上水流久彦の水準器】① 政治問題化する「桃園県忠烈祠」と「桃園神社」

© Photo Credit: Shutterstock / 達志影像

注目ポイント

台湾北部・桃園市にある「桃園忠烈祠曁神社文化園区」(桃園忠烈祠・神社文化公園)が揺れている。日本統治時代の「桃園神社」建物がほぼ原形をとどめているが、戦後、国共内戦に敗れた蒋介石が「中華民国」ごと台湾に逃れて以降、辛亥革命以来の革命家や、中国大陸での日中戦争などで戦没した中国兵士の霊を祭る「忠列祠」となった場所だ。この公園の運営を任された民間事業者が、その一角に日本の神を祀る神社を設けて活性化を図ったところ、「抗日運動で犠牲になった人も祀られている忠烈祠に、日本の神を祀るのは問題」と地元市議が指摘し、市の判断のもと、神は神社以外の場所に遷座させられ、「祀っていた神は今後日本に戻す」という騒動に発展した。

複数のまなざし錯綜し、論争の的に

日本の統治期、植民地において建築された数々の建築物が現在、旧植民地でどのように扱われているのか-。これが筆者の研究テーマだ。調査地のメインは台湾だが、韓国、中国東北部、パラオ等でも現地調査を行ってきた。

そして、研究対象となった建築物の現在の在り様を、「外部化」「内外化」「内部化」「溶解化」「遊具化」の5つに分類した。

この5分類については、筆者が編纂した『大日本帝国期の建築物が語る近代史―過去・現在・未来 』(2022年、勉誠社)の中で「旧植民地の建築物の現在―多元的価値観の表象」として詳しくまとめたが、最初の「外部化」とは、統治期の建築物の破壊や放置のことである。日本統治期の象徴として意図的に壊したかどうかは別にして、日本統治期の建築物の多くが現在は当然ながら存在しない。

次に「内外化」であるが、これは近代化を阻害した(収奪した)と否定する側面を建物に意味づけることである。

一方、「内部化」とは、日本の統治や文化的要素の「日本」を肯定的に理解し、他者との差異化を図る行為である。例えば、植民地統治は中国には無い台湾独自の経験だととらえ、日本統治時代の建築物をそのような歴史の証として位置づけたりする。

4番目が「溶解化」である。「おしゃれ」、「木造建築が美しい」という感覚で認知される統治期の建築物では、日本出自は消費する者には問題とされない。

日本のものはあくまで「おしゃれ」、「美しい」を構成する一部であって、歴史的な意味は問題にされない。まさしく「外部」であった異質な「日本」が、その出自を脱色し、日常生活へ溶け込んでいく。そのようなあり方が「溶解化」である。脱日本化ともいえる。

そして「溶解化」と同様に消費される対象となるものが、「遊具化」である。

だが、「溶解化」と決定的に違うことは、「日本に行かなくとも日本を楽しむことができる場所」として「日本」という要素が強調される点である。

ただし、一つの建物がいずれか一つの分類に該当するわけではない。

「外部化」された場合、モノそのものが存在しないため、当然ながら「内外化」「内部化」「溶解化」「遊具化」されることはない。

だが、「外部化」以外の残りの四つは、見せる側や見る側にとっての解釈の問題であるため、ひとつの統治期の建築物が複数のまなざしで見られる可能性がある。

例えば、「内外化」と「内部化」はその意味合いが対照的であるが、見る者の歴史的背景などによって、ある建築物が日本統治のマイナス面の象徴としてとらえられることもあれば、逆に日本統治のプラス面の象徴としてとらえられることもある。

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