注目ポイント
「日本の高校生の進学先として、台湾の大学は素晴らしい選択の一つとなる」と考えた元大阪府立高校長の筆者が、「台湾進学ゼミ」(大阪市阿倍野区)を立ち上げたのは2018年のこと。ゼミの使命は、入塾した高校生に1年間で一定水準の標準中国語を習得させ、そして台湾の一流大学に合格させることである。指導法やカリキュラム、教材まで手づくりで立ち上げたゼミ黎明期の苦心惨憺の数々をご紹介しよう。
名門大に次々合格、指導法も確立
大阪府の府立高校教員として天王寺高校校長などを歴任した後、退職し、思い切って退職金をつぎ込んでゼミを立ち上げたものの、設立当初は、口コミで集まってくれた4人の高校生に、同じ大阪市阿倍野区の一角にある相生通の友人宅の6畳ほどの洋室一室を貸してもらって寺子屋風に中国語指導と進学指導を行った。

結論からいうと、この初期塾生4人のうち1人は健康上の理由で台湾への進学をあきらめ、日本の大学に進学することになったものの、残り3人はそれぞれ台湾の名門大として知られる「国立清華大学」「国立台湾師範大学」「淡江大学」に進学していった。また、このうち師範大に進学した学生は、同時に「国立台湾大学」にも合格しており、滑り出しから上々の実績を収めることができたのである。
やがて生徒数が10人を超えた2019年に、台湾進学ゼミを株式会社として組織化し、教室も天王寺駅近くにある「あべのベルタ」ビルに移し、そこに本社をおいた。

このゼミの創設黎明期に、大きなエネルギーが必要で、かつ楽しかった仕事は、独自の標準中国語(台湾華語=マンダリンチャイニーズ)指導法の確立だった。具体的には、授業方法確立、自社教材開発、スケジュール整備である。
授業方法は、「聞く」「話す」力の習得に重点を置く方針で、最終的に「オール中国語授業」ということで固まった。中上級クラスは、日常会話と同じスピードでテンポよく授業が進む。そして初級クラスでも、参加者の能力に合わせて、台湾人講師が中国語オンリーで授業を行うのである。台湾進学ゼミの講師陣は日本語も堪能なので、いざというときはその場で日本語の解説を入れて生徒のストレスを解消することも可能であった。
もちろん、入塾したばかりの生徒がいきなりオール中国語授業に入るわけではない。初級クラスに入る前に、2週間の入門コースを用意している。場合によっては入門期間を伸ばして丁寧に指導することもある。ただ発音と基礎文法を身につけたら、そのままオール中国語の世界に入るという流れを整えた。
一部教材は自社でも開発
教材開発は、「自社開発教材と台湾の文教部(文部省)の公的教材の併用」というところで落ち着いた。


毎年、9月入学の学生が出発した後の余裕のある時期に、職員みんなで教材作成をするのである。また、台湾の文教部がオープンにしているPDF教材の中にも良いものが多く、この2つを併用するのが最善と考えた。そして、生徒集団が上級の域に達した後は、師範大作成の教科書を使って、会話中心から読解中心の授業に移行していく。さらには、文教部がネット上で公開している台湾華語(標準中国語)検定の模擬試験問題も重要な教材の一つとなった。