2021-12-01

新型コロナ流行と感染防止措置について 独・哲学者のハーバーマスはこう見る

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注目ポイント

ドイツの哲学者ハーバーマス(Jürgen Habermas)は、批判理論(Kritische Theorie)の第二世代である。2年前、90歳の高齢で2冊の大著『なおも一部の哲学史』(Auch eine Geschichte der Philosophie)を出版し、知識と信仰の関係を討論している。今年5月、彼はアラブ首長国連邦「ザーイド・ビン=スルターン・アール=ナヒヤーン(Sheikh Zayed)」が授与する図書賞の受賞を拒否し、現地の政治理念を認めるわけではないと示唆した。もし賞を受ければ、独裁政治の花嫁衣装となる。

ドイツの哲学流行雑誌『哲学マガジン』(Philosophie Magazin)、今期特集号のテーマはフランクフルト学派(Frankfurter Schule)の批判理論で、紹介されているのはアドルノ(Theodor Adorno)、ホルクハイマー(Max Horkheimer)、ベンヤミン(Benjamin)など第三、四世代の人物がいる。

またアクセル・ホネット(Axel Honneth)、ラーエル・ジェギ(Rahel Jaeggi)などの名も。今期特集号の先陣を切るのは、名声高いハーバーマスのインタビューで、内容は彼の政局、新型コロナウイルス、身分政治に対する見解に及ぶ。

 

インタビューの冒頭、ハーバーマスは自分が初めて師に会った時のことを振り返った。

1955年、当時アドルノはまだ一般的なイメージ上の「アドルノ」になってはおらず、思想もまとまってはいなかった。ハーバーマスは、アドルノは非常に礼儀正しく、彼に深い印象を与えたと語る。

哲学においてアドルノが彼に与えた影響は非常に大きく、その後の哲学の問題意識を決定づけた。

 

ハーバーマスは、アドルノは常に何かについて考えており、思想の嵐(Strom)の中にいて、同時にもたらされる苦痛(etwas Schmerzhaftes)は避けられなかったのだ、と語った。プライベートでは、アドルノはシンプルな生活を送っていた。

毎日昼に帰宅して昼食を摂り、3時に妻と共に研究センターに戻る、というスケジュールだ。

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他の学問同様、哲学も時代とともに進歩し、現実の問題に直面する。ハーバーマスは最新の著書で、哲学は学術専攻として、専門化は免れないとしている。しかし、彼は科学主義と業余主義(Szientismus und Dilettantisms)の潮流は、社会に危害をもたらすとも語った。

 

そのほか、新型コロナウイルス流行について、感染防止措置に対する見解を述べた。特に、健康を理由に個人の自由を制限する権利が国家にあるのかどうか。感染爆発以降、国家の権利と個人の自由は常に討論のテーマになっている。

 

総体的に、ハーバーマスはドイツの感染防止の態度に肯定的である。国家と民衆の協力団結(Solidarität)が感染防止の鍵だ。ハーバーマスは、国家が民衆の自由を制限するには、合法的な基礎が必要であり、同時に集団目標の追求と個人の自由の間の張力を保つことになると強調している。

 

政治情勢に対し、感染爆発後、社会に「Querdenker」グループが出現している。

「水平思考者」を意味するドイツ語だ。しかし、そこにある問題はかなり複雑なようだ。

 

陰謀論者、反ユダヤ主義者、極端な右翼組織、マージナル‐マンなどに及ぶからだ。新型コロナウィルスは政府が民衆の自由を抑制する手段だと考える者、ワクチンは製薬工場の利益の道具だと考える者、ユダヤ人資産家の陰謀だと考える者など。

そのため、反マスク令、反ワクチン、外出禁止令反対デモを行い、政府が発表した感染防止措置を守らず、個人の自由を守ることこそ、「真の」民主社会を守ることだと主張する。

 

インタビューでは、実はこういった現象は現代だけのものではなく、中世後期以降には、現代世界と自然科学を信用せず、拒絶する考えを生み、同時に幼稚な信念を持ち続ける人がいたという話になった。

こういった現象は実際、極端な自由主義の結果なのだ。

 

そこに合理的な根拠があるわけではなく、ただ自分だけの趣旨で、自己中心主義の表れなのである。ハーバーマスは、こういった現象は感染が去っても続くだろうと推測している。

 

インタビュー後半、ハーバーマスは脱植民地化運動と、身分政治の問題に触れ、異なる文化の樹立は、自分が独立した存在であるだけでなく、いわゆる不変の身分と文化がないからであると語った。

 

彼はヨーロッパの共融、相互協力を主張した。コロナ感染がイタリアで爆発した時、EUは最初はパニック状態に陥ったが、結果として感染の抑制が可能となり、最善の処置が講じられたことは、すでに明らかである。

 

最後に、ハーバーマスはイギリスの哲学者ラッセル(Bertrand Russell)が1959年に、将来の世代に向けた2つの提言に賛同した。1つ目は知恵の追求、2つ目は道徳の追求である。

 

ラッセルは「人は真相を追求すべきであり、自分の幻想に人生を導かれてはいけない。道徳はグローバル化した世界でも、人に対する寛容さと、人に共感することを求めている」としている。

 

ハーバーマスはラッセルの観点に賛同し、さらに補完した。歴史の発展から、奴隷制度の廃止、脱植民地化、死刑廃止、宗教の多元化、言論の自由、性別同権など、社会が少しずつ理性の時代に入り、人の道徳要求も絶えず引き上げられていることは明白である。

 

今現在、世界の問題を即時に解決する方法はないが、人の実践理性に希望を見出し、世界をよりよく改善することができる。また、カント哲学から啓示を得ることができるだろう。

 

原文作者: 戲言
原文責任編集者: Alex
原文校閲者: Alvin
翻訳者: TNL JP編集者
校閱者: TNL JP編集者