注目ポイント
エジプト観光・考古省は先週、同国南部アビドスでラムセス2世(紀元前1303年頃~紀元前1213年頃)の神殿に、供物として捧げられたとみられる2000個を超える大量の羊の頭のミイラが発見されたと発表した。この発見で、ラムセス2世が死後1000年にもわたり、プトロマイオス朝時代(紀元前305年~紀元前30年)の古代エジプト人にも崇拝され続けていたことが分かった。
エジプト観光・考古省によると、米ニューヨーク大学の古代世界研究所(ISAW)の考古学発掘チームはこのほど、エジプトの遺跡都市として知られるアビドス市にあるラムセス2世の神殿から、2000個分の羊の頭のミイラを発掘した。同市は首都カイロの南約430キロ、ナイル川の西約11キロに位置している。また、王家の谷などの遺跡で有名な古代エジプトの都テーベがあったルクソールからは北西に約170キロ。
雄羊の頭骨は神殿の敷地内の北に積み上げられて発見されたという。羊の頭の他、犬、野生のヤギ、牛、ガゼル、マングースのミイラも見つかった。
ISAWの発掘チームを率いるサメハ・イスカンダル代表は米CBSニュースに、「最初はいくつかの頭蓋骨の断片を見つけたが、それらが何であるか分からなかった。だが、発掘と調査を続けていると、突然、雄羊の頭蓋骨だらけの一帯に遭遇した」と明かした。
さらに、「これらはプトロマイオス朝時代、ラムセス神殿に捧げられたもので、亡くなって1000年が経ったその時代でも、ラムセス2世が崇拝されていたことを示している」と解説した。ラムセス2世は紀元前1213年に亡くなるまでの約60年間、ファラオとして古代エジプトを統治した。
イスカンダル氏は、雄羊の頭部のいくつかはミイラ化されていたが、「他のものはミイラ化された可能性はあるが、覆いやカバーはすでに失われていた」と説明。それらの頭蓋骨は、パピルスから皮革工芸品や彫像まで、古代寺院の倉庫だった場所の地表から約180センチ下で発見されたと述べた。
同じ場所で大量の頭蓋骨が発見されたことは、「エジプトの学者にとっても驚くべきことだった」とイスカンダル氏。「それらは全て同時に投棄されたことは明白だ。つまり、何年にもわたって持ち込まれた頭蓋骨ではなく、他の場所から持ち込んで、何らかの理由でここに埋められたということ。その理由はまだわからない」と語った。
「重要なことは、羊たちが連れて来られた場所は神殿のどこかではなく、何らかの理由でその特定の場所に連れてこられ、ただ砂漠に捨てられたのではなく、神殿のこの神聖な領域だったことだ」と付け加えた。
同チームはまた、約4200年前の古代エジプト第6王朝にさかのぼる、厚さだけでも約4.8メートルの壁を備えた、泥レンガで作られた大きな構造物を発掘した。
「これはアビドスの景観に対するわれわれの概念を覆す大きな建造物。壁の高さは少なくとも9メートルはあった。ただ、この壁が何なのかは正確には分かっていない。これまで発見されたことのない、古代アビドスの壁だった可能性はある」とイスカンダル氏は語った。その上で、「壁の構造物は、ラムセス2世の神殿築造以前の古代アビドスの姿を再構成するのに役立つ」とした。