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台湾出身の若手アーティスト、呉庭鳳の個展が31日まで横浜のBankART Stationで開催されている。横浜市と台北市のパートナー都市提携を機に始まった「台北市・横浜市アーティスト交流プログラム」の一環で、横浜のアートスペース、BankART1929に約3カ月滞在し、制作した成果を発表するもの。日本画で使われる岩絵具を用いた作品には、初めて暮らした異国の街中で出会った、かけがえのない大切な思い出が描かれている。
みなとみらい線「新高島駅」の地下1階に位置する、駅ナカのギャラリー「BankART Station」にて、3月24日から新たな個展が始まった。「日日是好日」では、繊細なタッチとユニークな視点で、横浜という街の魅力や楽しさを伝えている。
作品を手がけたのは吳庭鳳(ウー・ティンフォン)氏。現在、台湾国立台北教育大学大学院で芸術造形を専攻している修士2年生だ。台湾出身、25歳の若き芸術家は、今年1月に人生ではじめて台湾を離れ、未知の地・横浜での制作活動を始めた。今回の展示は、そんな彼女が横浜に滞在した3カ月の集大成である。
横浜と言えば誰もが知る中華街や赤い靴、崎陽軒のシウマイをはじめ、馬車道の絵タイルや横浜の海、さらには街中に置かれた公衆電話などをモチーフに、外国人ならではの視点で横浜の日常を描く。日本画の岩絵具を使ったやわらかな色彩で表現する街は、横浜在住者でも気付かない魅力が見事に表現されている。
今回、吳氏の個展のきっかけを作ったのが、「台北市・横浜市アーティスト交流プログラム」だ。横浜市と台北市は平成18年(2006年)にパートナー都市締結を結んでから、文化やスポーツなどさまざまな分野での交流を進めている。中でも芸術分野の交流は目覚ましく、平成17年度(2005年)から互いの都市に芸術家を派遣する事業が始まった。横浜の受け入れ先はBankART1929、台北は台北国際芸術村だ。選ばれた芸術家は90日間滞在し、現地の芸術家や市民と交流を深めながら作品を作っていく。今年はプログラム発足から16年目。コロナのため3年ぶりに事業が再開されたという、記念すべき回でもある。
24日のオープニングレセプションでは流暢な日本語を披露した吳氏だが、プログラムにより選出され、日本に渡航する前は、ひらがなも読めなかったという。
「最初はとにかく慣れない環境で、言葉が通じないことがつらかったです。それでも毎日街中を歩き回り、横浜の人々にインタビューをし続けた結果、三カ月でかなり聞き取れるようになりました。今では横浜が大好きです」
そう笑顔で語る吳氏。今回手掛けた絵画はその全てに、彼女自身の手がモチーフを包みこむように描かれている。
「横浜での思い出は、どれもかけがえのないもの。その大切な思い出をこれからも守っていきたいと、両の手を描き添えました」
個展後は台湾に戻り、大学院を修了する予定。その後はまた、公募展などのために再び横浜で制作したいと氏は語る。