注目ポイント
新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)の起源について、中国・武漢の市場で売られていたタヌキと関連していた可能性を示す遺伝子データが、このほど国際研究チームにより確認された。ただ、この発見でタヌキがウイルスを人間に媒介した最初の感染源であったことを明確に示すものではないとしているが、武漢市場説がますます否定できなくなってきた。
米スクリプス研究所、豪シドニー大学、米アリゾナ大学などによる国際研究チームは、中国・武漢にあった華南水産市場の動物の檻や車両、地面などから2020年1月~3月に採取された遺伝子データを再分析した。同市場の名前は「水産市場」だが、魚介類をはじめコウモリ、センザンコウ、ヘビ、カモ、ムカデ、タヌキ、ウサギなど各種の野生動物を食用として販売していた。
その中で、同市場から採取されたタヌキのサンプルが、新型コロナウイルスの遺伝子解析で関連性を確認したと同チームが報告した。ただ専門家は、この発見でタヌキがウイルスを人間に媒介した最初の感染源であったことを明確に示すものではないとしている。
新型コロナの起源をめぐっては米エネルギー省が先月、「確度は低い」としながらも、中国政府が管理する研究所から流出したと発表し、論争が再燃した。ただ、米政府機関で研究所からの流出説を支持しているのは、エネルギー省と連邦捜査局(FBI)だけにとどまっている。
中国政府は研究所流出説に猛反発し、米国はパンデミックの起源を突き止める取り組みを政治化しているとまで非難。また、武漢を含め、中国国内の野生生物市場での違法取引が起源とする説も否定している。
そんな中、新たに今回のタヌキ説が浮上した。タヌキはアジア人にとってはなじみ深い動物だが、詳しい生態などについては知られていないことが多い。そんなタヌキについて米紙ワシントン・ポストが詳しく解説した。
タヌキはイヌ科の動物で、最も近い親戚はキツネだ。顔の模様が北米のアライグマ(英語でラクーン)に似ていることから、英語では「ラクーンドッグ」と呼ばれている。
動物による人間へ伝染を研究している米ジョージタウン大学の獣医エレン・P・カーリン氏によると、タヌキは東アジア原産だが、20世紀半ばにソビエト連邦が毛皮貿易のために欧州に導入した。また、中国の一部では珍味とされているという。
小型から中型の哺乳類とされるタヌキは通常、昆虫、ネズミなどのげっ歯類、鳥、魚、果物、木の実、ベリーなど、さまざまなものをエサにしている。だが、米コーネル大学獣医学部で野生生物の病気を研究する生態学者クリステン・シュラー氏によると、アライグマと同じように動物の死体を主たる食物とする腐肉食動物でもあり、野生では病気にかかりやすいという。
タヌキは欧州連合(EU)では懸念される侵略種にリストアップされている。
EUの報告書は、「タヌキは狂犬病、寄生虫、マダニ、疥癬、その他の寄生虫や病気の非常に深刻な媒介動物でもあり、在来の野生動物や人間にとって危険」としている。