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2023-03-22 政治・国際

クレディ・スイス買収交渉の舞台裏

注目ポイント

スイス高官からの緊急を告げる電話が鳴ったのは、3月16日の午後4時のことだった。

2023年3月19日、スイス・チューリッヒのパラーデ広場にあるスイスの銀行、クレディ・スイス(右)とUBS(左)の本社 © Keystone / Michael Buholzer

昨年4月からUBS会長を務める破天荒なアイルランド人経営者のコルム・ケレハーは、17日の聖パトリックの日を祝った後は、18日のラグビーのアイルランド対イングランド戦をチューリヒのパブで観戦しようと考えていた。欧州6カ国対抗戦で祖国が圧勝かグランドスラムを達成すると期待していた。

だが電話を取る前から、週末を楽しめる可能性が低いことは分かっていた。業界の競合クレディ・スイス(CS)は3年前からスキャンダル続き。今や欧州銀行業界の膿とされ、その混乱は過熱気味にあった。

その前日、スイス国立銀行(中央銀行、SNB)が500億フラン(約7兆1千億円)の流動性供給策を発表したが、貸し手の間に広がった信用危機を食い止めることはできなかった。筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクのアンマル・フダリ総裁が追加出資の可能性を問われ「絶対にない」と答えた発言が広がると、CS株は暴落した。

1日で420億ドルの預金が流出した米シリコンバレー銀行を米規制当局が管理下に収めたのを機に、世界市場には不安が広がったが、同じことがCSの身にも降りかかっていた。昨年10月、破綻の危機に陥っているという噂がソーシャルメディア上で拡散され、富裕層の預かり資産が1日100億フラン以上流出。総額1110億フランを失った。

「最大の投資家が『私はもう1セントも出さない』と断言したのは、強烈な不信任投票だった。彼が何も言わなかったら、我々は別の状況にあったかもしれないと言っていい」。あるCS経営陣の関係者はこうこぼす。

15日、CSのアクセル・レーマン会長とウルリッヒ・ケルナー最高経営責任者(CEO)は出張先のサウジアラビアから呼び戻された。召喚したのはスイスのSNB、金融市場監督機構(Finma、日本の金融庁に相当)、財務相の「トリニタス(三位一体)」だ。

500億フランの流動性供給を承認したのと同じ会議の場で、別のメッセージが伝えられた。「CSはUBSと合併し、アジア市場が開く前の日曜夜に発表する。これは『オプション』ではない」。会話を知る人物はメッセージの内容を明かした。

ケレハーは16日午後、週末の計画がおじゃんになったことを悟った。電話の主はトリニタスだった。病床に付す同業者を破産から救うための解決策を見つけるよう指示が下った。

「(政府管理下の段階的廃業という)解決は金融システムにとっての大惨事となり、世界中にコンテージョン(伝染)への脅威をもたらしただろう」。UBSサイドの別の関係者はこう話す。「失敗すればウェルスマネジメントに関するスイスブランドを損なうという意味で、UBSとも利害が一致していた。だがら、適切な条件のもと、我々が救うと返答した」

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