注目ポイント
昨年8月、米国ペロシ下院議長の訪台時に中国が仕掛けたとみられる大量の偽情報がSNSで拡散されたのは記憶に新しいところ。台湾や日本社会の分断を図る巧妙な「認知戦」はどのように仕掛けられているのか。そして、どう対策をなすべきなのか。山本一郎さんの月イチ連載です。
日本のメディア人やチャイナウォッチャーの間では「中国が仕掛けてきている偽情報(ディスインフォメーションやフェイクニュース)はたいしたことない」と喝破する筋と「実は表向きの戦狼的なやり方とは別に、金銭や地位で抱き込んだ日本人を使って工作をしているので見破るのが困難で大変である」と困惑する筋とがおります。
前者は特にTwitterなどSNSを使って中国側の立場を積極的に擁護し、だから日本は駄目だ、一緒に頑張ろうとしている台湾はおかしい、あるいは日本が追従しているアメリカがいかにあかんかという言葉を積極的に流して、これらの有識者だけでなく一般の日本人ネット民も総じて「中国人はこういうことを書くから駄目なのだ」という反応を示すことになります。つまり、中国人が自分たちの主義主張を偉そうに述べれば述べるほど、一層日本のネット民は反発するようになります。
例えば、日本でもシステム系企業を立ち上げて株式上場まで企業を育てたビジネスマンとして著名な宋文洲さんが、割といい感じで中国やロシアにシンパシーを持たせるツイートを連発しています。帰国されて北京市に住んでおられるようですが、利用しているクライアントが特殊でして、現在Twitterの利用が禁じられている中国国内からどうやってツイートしているのだろうという興味はあります。
ただ、興味の本丸はそこではなく、この宋文洲さん名のアカウントのツイートを誰が読み、拡散しているかです。他のツイートや、実名でTwitterをやっている人のアカウントの重なりを見るソーシャルグラフという仕組みで定点観測しながら解析していくと、いわゆる日本国内の中国人コミュニティのクラスターというよりは、朝日新聞系や毎日新聞、東京新聞だけでなく大学教授、労働組合職員といったそちら方面でお馴染みの記者や有力読者アカウントが中心となって宋さんのアカウントによるツイート(見解)を広めようとしていることが分かります。
特に、台湾有事にあたっては、日本は沖縄県民を盾にして介入するつもりだ、という類の話が宋文洲さんからは発せられたときは「おっ」と思って動きを見ておったわけですけれども、確かに中国からすると台湾有事に台湾側として参戦してほしくない日本やアメリカに対して離間策のような相互の信頼を失わせるような議論を繰り出すのが定石になっています。いわば、偽情報に関しては、特に内部の相互の信頼関係を失わせるような認知戦を仕掛けようという話なのであって、その話題の窓口となる役割を果たしているのが宋文洲さんのような日本でも相応に実績のある人のアカウントなのだろうと感じます。