注目ポイント
3月18日(土)から6月11日(日)まで国立西洋美術館(東京・上野公園)で開催される「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」では、とりわけ多くの画家たちがこの地に引きつけられた19世紀後半から20世紀はじめに着目し、この地の風景や歴史をモチーフとした作品を一堂に紹介する。

フランス北西部、大西洋に突き出た半島を核とするブルターニュ地方は古来より特異な文化を紡いできた。この度、この地を愛した画家たちの作品が集うことになった!
断崖の連なる海岸や岩が覆う荒野、内陸部の深い森をはじめとする豊かな自然、カルナック列石など各地に残された古代の巨石遺構や中近世のキリスト教モニュメント、そしてケルト系言語「ブルトン語」を話す人々の素朴で信心深い生活様式――。
このフランスの内なる「異郷」は、ロマン主義の時代を迎えると注目を集め、新たな画題を求める芸術家たちがやって来た。以来、ブルターニュは流派や国籍を問わずに幅広い画家たちを受け入れることとなった。そして、19世紀末にはポール・ゴーガンを取り巻くポン=タベン派やナビ派といった美術史の上で重要な画家グループの誕生を促した。
3月18日(土)から6月11日(日)まで国立西洋美術館(東京・上野公園)で開催される「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」では、とりわけ多くの画家たちがこの地に引きつけられた19世紀後半から20世紀はじめに着目し、この地の風景や歴史をモチーフとした作品を一堂に紹介する。
また、フランスを中心とする西洋画家のみならず、明治後期および大正期にかけて渡仏し、ブルターニュにまで足を延ばした日本出身画家たちの足跡と作品にも光を当てる。
会場には国内の30を超える所蔵先と海外2館から集められた約160点の絵画や素描、版画、ポスター作品に加え、文学作品などの関連資料も展示される。
〇第1章「見出されたブルターニュ:異郷への旅」——ブルターニュ地方が画家たちを引きつけはじめたのは、19世紀初めのロマン主義の時代。イギリスの風景画家ウィリアム・ターナーの水彩画やフランスの画家・版画家が手がけた豪華挿絵本など、19世紀初めの「ピクチャレスク・ツアー(絵になる風景を地方に探す旅)」を背景に生まれた作品から紹介していく。ウジェーヌ・ブーダンやクロード・モネら、旅する印象派世代の画家たちがとらえたブルターニュ各地の表情豊かな風景を前に、自然と向き合う画家たちの真摯(しんし)な眼差しを感じ取れるのではないだろうか。


〇第2章「風土にはぐくまれる感性:ゴーガン、ポン=タベン派と土地の精神」——ブルターニュ地方南西部の小村ポン=タベンは画趣に富む風景。古い建造物や民族衣装を着た人々といった豊富なモチーフのみならず、滞在費やモデル代の安さも手伝って多くの画家を魅了し、早くも1860年代にはアメリカやイギリス、北欧出身画家たちのコロニーが形成されていた。1886年、パリでの生活苦から逃れるようにポン=タベンへ赴いたゴーガンはこの地を気に入り、1894年までブルターニュ滞在を繰り返して制作に取り組む。ゴーガンと彼を取り巻くポン=タベン派の画家たちは、単純化したフォルムと色彩を用いて現実の世界と内面的なイメージとを画面上で統合させる「綜合主義」を展開。ゴーガンが度重なるブルターニュ滞在中に制作した作品12点(絵画10点、版画2点)によって造形表現の変遷をたどる。実験的な創作活動の場としてのブルターニュを見てもらいたい。