2023-03-18 経済

線路で太陽光発電 スイスの新技術を世界へ

注目ポイント

世界初の線路用「着脱式」太陽光パネルシステムが鉄道王国スイスで誕生した。開発したスタートアップ企業はスイスから世界へこの技術を広げたいと意気込むが、最大の壁は保守的な鉄道業界だと打ち明ける。

サン・ウェイズのアイデアは一見シンプル。レールの間のスペースを利用して、太陽光発電パネルを設置する Sun-Ways

太陽光発電の可能性は広がり続けている。今や太陽光パネルは、家の屋根からハイウェーの防音壁、ダム壁面、更には湖面に至るまで、これまで使われていなかったあらゆる表面に設置されている。

スイス西部のエキュブランにある小さなスタートアップ企業「サン・ウェイズ(Sun-Ways)」が、また新たな可能性を切り開いた。それは線路のレールの間。標準サイズの太陽光パネルを設置する十分なスペースがあり、かつ電車の走行も妨げないとサン・ウェイズ共同創業者のバティスト・ダニシェール氏は語る。「この方法で電力供給の一部を担える」

スイスも他国と同様に、温室効果ガスを排出しない「ゼロエミッション」社会を実現するために再生可能エネルギーの開拓と普及に力を入れている。だが空き地が少ないため大規模施設の建設は難しい上、環境や文化遺産を保護する厳しい規制により、個人・民間の建物・インフラ、山岳地帯などへの太陽光パネルの導入が制限されることもある。

「その点、線路のレールの間なら見た目も問題なく、環境にも影響しない」(ダニシェール氏)

ピストンで線路にはめ込む

サン・ウェイズの方法はシンプルだ。あらかじめ工場で組み立てた太陽光パネルを、突っ張り棒のような仕組みのピストン方式でレールに取り付ける。太陽光パネルはスイス製。1メートル幅のパネルは簡単に線路の間にはまる。

設置作業にはスイスの鉄道線路管理を行う企業「ショイヒツァー(Scheuchzer)」が開発した貨物列車のような車両を使う。列車を前に進めながらパネルを「カーペットを広げるように」順々に取り付けていく。

鉄道の線路に太陽光パネルを設置するというアイデアは以前からあり、既にイタリアの「グリーンレール(Greenrail)」と英国の「バンクセット・エナジー(Bankset Energy)」の2社が、線路の枕木に太陽光パネルを取り付ける方法を手掛けており、現在テスト中だ。一方サン・ウェイズの方法はパネルを着脱できる点が新しい。世界初の同技術は、連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)との共同開発で誕生した。特許も取得済みだ。

「これこそまさにイノベーションだ」とダニシェール氏は胸を張る。実際、線路の保守・管理を行う上で、太陽光パネルを取り外せることは非常に重要だ。例えば、傷や亀裂を防ぎ電車を安全に走行させるためにレール表面を削る「削正(さくせい)」と呼ばれるメンテナンス作業が定期的に行われるが、その際にもパネルを取り外す必要がある。

世界の鉄道50万キロメートルに太陽光パネル

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