注目ポイント
The News Lens JAPAN編集長・吉村剛史が台湾海峡や国際政治、その他最近の気になる話題について語る不定期連載コラム第3回。今回は車両更新問題に関し、引き続き日本製新型車両が導入される方向で交渉がまとまった台湾新幹線(高速鉄道)について。
言い分は双方にあったが、「新幹線技術の初の海外展開事例」とする日本側見解とは相違し、台湾側では「日本と欧州のベストミックス」と位置づけてきたように、一部に欧州の安全基準などを採用したため、これが車両価格を押し上げる要因となっていたとされる。また台湾を介した技術流出という懸念も日本側にないわけではなかった。
だがそもそも台湾高鉄の700T系車両は耐用年数30年とされたが、日本側の車両モデルチェンジで部品供給が途絶え、早期更新に迫られたという不信感も台湾側にはあった。成り行き次第では欧州企業や中国製に取って代わられる懸念も生じ、高度な政治案件ながらその解決が待たれていたのだ。
結局、台湾高速鉄道会社は3月15日、日立製作所や東芝の日本企業連合から新車両12編成(1編成12両)計144両を約1240億円で購入することを取締役会で決定し、発表した。日本側の両社は昨年12月、入札で優先交渉権を得ていた。
近く正式に契約を結ぶ運びだといい、現地報道などによればJR東海の最新型車両「N700S」がベースとなるとみられ、早ければ2027年にもお目見えする見通しだ。
「輸送能力をより充分に備えることで高品質なサービスを提供したい」としている高鉄側は、安全性や技術、運用面での利点、価格などを総合的に判断したとしているが、台湾との友好関係を象徴する海を渡った新幹線について日本側も重視し、昨年訪台した国会議員も蔡英文総統にこの案件について言及。国交省高官を派遣するなど、水面下では官民をあげたねばりづよい交渉があった。
コロナ禍で日台の通常往来がストップした後の2020年7月、台北駅西側に「国立台湾博物館鉄道部パーク」がオープンした。1914(大正7)年建築の旧台湾総督府交通局鉄道部の上部は木造という風変わりなレンガ造りの庁舎(戦後も長く台鉄が総局としていた)であり、ここでの展示物を見れば、鉄道こそが戦前、戦後で断絶した台湾社会の歴史、郷土の記憶をつないできた存在であることがよくわかる。


かつて先進国・日本の下請けのような立場だった台湾も、近年は東京スター銀行、シャープ買収にはじまり、TSMC半導体工場の熊本進出などで日本を支える存在に変貌しつつあり、今回の交渉でも日本側と互角の交渉を重ねたことは想像に難くないが、清末に始まり、日本統治時代に開花した台湾の鉄道の延長線上に、こんにちの台湾新幹線が連なっていることを思う時、ひとまず困難な政治案件が解決方向に向かったことを素直に寿ぎたい。