注目ポイント
「日本経済新聞」が「(台湾)軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る」「腐敗が常態化している」などとする取材対象者の証言を連載企画の中で紹介し、「9割」の根拠などをめぐって台湾で同紙に対する批判の声があがった問題。日経新聞は結局「お知らせ」とする短文を掲載し、あくまで「取材対象者の証言」「社としての見解ではない」として幕引きをはかった。だが台湾では現実に軍関係者の情報漏洩事案も起きているだけに、与野党双方にとって政治的に微妙な領域に同紙が立ち入った結果、との見方も指摘される騒動となった。
これに対し馮世寬氏は、退役軍人が国家安全法などに違反した場合、「社会的優遇措置は打ち切られるし、 2700 人の退役軍人らが、そもそも渡航が禁じられている中国以外の海外に行く際も、事前に承認を得るため当局に報告しなければならない」と腐敗防止のための厳しい制度が存在する現状を強調。
日経の連載企画のなかで紹介された「台湾軍の情報を中国側に提供できるうちは(中国でのレストラン経営などの)商売は順調だった」という退役軍人の証言についても、馮世寛氏は、「多くの軍人には中国でビジネスを行うだけの条件がそろっておらず、その見返りに軍の情報を漏らしてるなどというケースはないと信じている。退役軍人の退職金はけして低くはないが、中国で容易にビジネス展開できるほど潤沢でもない」と主張している。
またこれとは別に与党・民進党に所属する立法委員(国会議員)の林靜儀氏が、「退輔会が国家安全法に違反した退役軍人に対し、退職金を返金させるかどうか」と質したところ、 馮世寬氏は、「その際は年金機構が直ちに停止する必要がある」と応じ、返金させるべきとの考えを示した。
日経報道を受けた台湾各方面の動向
一連の日経新聞の連載企画報道に対し、これ以外にも台湾ではいくつもの動きがあった。
このうち立法院(国会)の外交委員会では、国家軍退役軍人諮問委員会を設置するための一時的な提案を行った。国防部(国防省)、大陸問題審議会、法務部(法務省)などの関係機関は、過去5年間に退役した軍人のリストにもとづいて、安全を脅かす違反事案があったかどうかを調査。台湾と中国本土の人々との軍事に関する規制や国家安全法、国防機密情報などの漏洩などに関する規制など、国家安全を維持するための管理強化方法などを研究し、議論することになり、 馮世寬氏も同意。暫定提案は可決された。
また日経新聞が「お知らせ」を掲載する前日の3月6日には、邱国正国防部長(国防相)は日本の対台湾窓口機関である日本台湾交流協会と台北駐日経済文化代表処、さらに蔡英文総統に報告したのち外交部(外務省)を通じて日本経済新聞社へ抗議していた。
他にも激しい議論が巻き起こった台湾社会を象徴するかのように、3日には市民が台北市松山区の日経新聞台北支局前で過激な抗議したことがネットに投稿され、 地元警察が同日午後、現場に汚物らしい液体があったことを確認したという。
日経「お知らせ」への反応もさまざま
先述の通り『日本経済新聞』は3月7日付朝刊紙面で「お知らせ」と題する声明を掲載。「2月28日付『迫真 台湾、知られざる素顔1』の記事中のコメントは、取材対象者の見解や意見を紹介したものであり。日本経済新聞社としての見解を示したものではありません。混乱を招いたことは遺憾です。公平性に配慮した報道に努めて参ります」とした。